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フェアコンサルティングは、世界19カ国/地域に34拠点を構えるグローバルコンサルファームだ。約1,700社のクライアントを抱える同社には、今日も日系企業からの相談が相次ぐ。

なぜ、これほどまでの成長を遂げ、世界中から頼られる存在になったのか。「多くのお客様に喜んでいただけるサービスを提供する」という基本理念の神髄に迫る。

グループ代表の伴 仁が妻と2人でフェアコンサルティングを創業したのは、2004年のことである。

「それまでは監査法人で公認会計士としてキャリアを積んできました。投資家と債権者に向けて仕事をするのではなく、お客様からの『ありがとう』という声をダイレクトに聞きたくて、コンサルティング会社を起業したんです」

それから20年。同社はいかにして、世界各地に拠点を構えるようになったのか。そして、どのように急成長を遂げたのだろうか。


「直営拠点」による一貫したサービス提供に強み


グループ全体の従業員数は551名(2024年4月時点)、うち70名ほどが公認会計士・税理士だ。財務・会計に関する高い専門性を武器に、日本企業が海外拠点を設立する際の支援や、現地での運営支援、M&Aアドバイザリー、事業撤退時の清算処理などに対応する。「世界中で日本企業向けの会計事務所をやっていると思ってください」と、伴は気さくに語る。

しかし、創業時からグローバル展開を視野に入れていたわけではなかった。

「もともとは、株式公開支援のコンサルティング業務が中心でした。そこから、お客様の課題やニーズに応えていくうちに、事業範囲を拡大していった形です。2005年、香港に最初の海外拠点を置いたのも、お客様ありきで始まったことでした」

フェアコンサルティンググループの求人情報を掲載していますフェアコンサルティンググループ 代表 伴仁

当初は、合弁会社を設立するなどして海外の業務に対応し、ハノイや上海にも拠点を広げていった。現地の日本法人に対して最適な支援を模索するなかで、伴は直営拠点を置くことに優位性を見出す。

「大手コンサルファームでは、各国の同業他社とアライアンスを結ぶのが一般的です。しかし、中身はあくまで別の会社なので、コミュニケーションのロスが大きい。直営拠点という“1つの会社”にすることで、スピード感や価格帯に競争力が生まれると考えました」

そして2010年11月、フェアコンサルティングは本格的に海外進出をスタートさせる。まずはアジアを中心に、日本企業が多く進出している主要都市を、面で押さえる戦略だ。伴には「勝つにはこれしかない」という思いがあった。

「初めて行く土地でホテルを選ぶとき、おなじみのホテルブランドがあると安心して選べますよね。それと同じで、『世界中のどこに行っても、フェアコンサルティングがある』という状態を作りたかった。すべてが直営拠点で、日本本社とつながっており、一貫したサービスが受けられる。そこに勝ち目があるはずだと」

だが、ゼロベースからの海外拠点立上げは簡単ではなかった。これまでは顧客ニーズが存在する地域に拠点を設けていたが、先に主要都市を押さえていく方法では、ゼロからの開拓にならざるをえない。

「大変でしたね。会社のブランドは一切使えませんから、まずは自分自身を売り込むしかない。中国進出のときは夜の付き合いも多かったですし、現地の歌もいくつか覚えました(笑)。銀行の担当者からの相談に答えながら、信頼関係を築いて、徐々に仕事を増やしていきましたね」


失敗を乗り越えた先にチャンスがある


海外34拠点のうち、6拠点は中国にある(上海、北京、蘇州、成都、深圳、広州)。そのひとつである上海に、2012年から駐在しているのが粟村英資だ。

公認会計士として監査法人で経験を積んだあと、一般企業で経営企画室長としてIPO準備などの実務に携わった。中国にある子会社の経営管理も、その仕事のひとつ。フェアコンサルティングにジョインしたのは、「多様な情報が集まるコンサルティングファームで、中国での仕事をもっと深めたい」と考えたからだった。

出張ベースで中国に行くことはあったが、駐在は初めて。失敗談を聞くと「失敗しかしてないですね」と、伴と顔を見合わせて笑う。

「日本語が通じる場面も多いので、そこまで言葉の壁は感じませんでした。ただ、現地の商習慣については、お客様のほうが詳しいことが多々あります。厳しいお客様からは『そんなことも知らないのか』と叱責を受けることもありました」

フェアコンサルティンググループの求人情報を掲載していますフェアコンサルティンググループ 中国拠点代表 粟村英資

特に印象深いのは、新型コロナウイルス感染拡大による大規模なロックダウンだった。「66日間、自宅マンションの敷地から外に出られなかった」と粟村は振り返る。

「大半の仕事は自宅からオンラインでできたのですが、お客様への送金だけは事務所に戻らないとできなくて。お客様には事情をご理解いただけましたが、ロックダウン解除後はスタッフ総出で送金手続きをしました」

コロナ禍はビジネスの在り方を大きく変えた、と伴は語る。かつては「すぐに相談ができるように」と、顧客に近い拠点が好まれる傾向があったが、リモートワークが当たり前になり、顧客の意識にも変化が訪れた。

「アメリカでは、ニューヨーク・ダラス・ロサンゼルスの3拠点で、50州すべてをカバーしています。駐在員もフルリモートワークです。アメリカは州ごとの独自性が高いので、まるで50カ国あるようなもの。それを少ない拠点で回せるようになったのは、ある意味“チャンス”でもあったと思います」


「戦略」起点から「人」起点へ


拠点展開の考え方も変わってきた。フェアコンサルティングでは、成長戦略として「世界200拠点」を掲げている。だが、世界の主要エリアを網羅したいま、伴は「戦略的な拠点拡大」から「人起点での拠点設立」を重視するようになったという。

「ここまで直営拠点で『面』を押さえているコンサルティングファームは、他に類を見ません。その強みから海外での認知度も高まってきましたし、直販営業も安定して実を結ぶようになってきた。であれば、戦略どうこうではなく、人のご縁で拠点を出すようにしようと」

その「ご縁」のひとつが、メンバーの“パーソナルニーズ”による拠点設置だ。

ロンドンの拠点は、マレーシアに駐在していたメンバーの「イギリスで挑戦したい」という希望から作られたもの。メルボルンの拠点は、家族でオーストラリアに移住することになったメンバーが退職を申し出たため、「ぜひうちで働き続けてほしいから」と新たに設けたものだという。

「いい人がいれば、いい拠点ができるでしょうから」と伴は語る。その姿からは、メンバーたちへの絶大な信頼がうかがえた。


プロフェッショナルファームでもあり、ソリューションカンパニーでもある


その信頼の源にあるのが、積極的なコミュニケーションだ。伴はおおむね3カ月に1度のペースで各海外拠点を回り、駐在員と1on1の時間を設けている。話すだけならリモートでも事足りるが、「それでは現場の空気感がわからないから」と実際に足を運ぶ。

同社で同じ時間を過ごしてきた粟村の目に、伴のリーダー像はどのように映っているのだろうか。

「一言で表すなら、包容力でしょうか。異なる環境でキャリアを築いてきた公認会計士たちを束ね、同じベクトルに向かわせるのは、簡単なことではありません。強権的なリーダーシップではなく、ふわりと包み込む柔らかさが組織を成り立たせていると感じます」

「そうしないとまとまらないから」と笑う伴に、「おかげで各拠点間のやりとりもスムーズですよ」と粟村は続ける。

「例えば、中国からタイに出資したい、という話があったとき、すぐにタイの拠点に電話をかけて『そちらの制度はどうなっているのか?』と聞ける。直営拠点同士で、情報共有がスピーディーに行える環境なのが、我々の強みです」

粟村は、上海に駐在して13年目になる。海外で働き続ける魅力について聞くと、すぐに「楽しいですよ」という言葉が返ってきた。

「現地で働くからこそ、その土地の“温度”を肌で感じられます。日本にいるだけでは得られない知識・経験が得られるのは、単純に楽しいですし、自分の価値を高めることにもつながるはず。それは会社にとってもプラスに働くと思います。

中国に進出する日本企業の数は、当社のクライアントの中でも群を抜いて多いですが、今年に入ってからは撤退の相談も増え始めています。より幅広い業務に対応できる体制を整えて、中国でビジネスをするお客様に伴走していきたいですね」

フェアコンサルティングの基本理念は「多くのお客様に喜んでいただくこと」。一社でも多くのお客様に出会うために、日本に、世界に、拠点を展開してきた。IPOやM&A、コーポレートファイナンスなど、支援内容は多様化かつ高度化していき、近年は人材紹介やベンチャー企業支援といった新規事業にも取り組んでいる。

お客様が望むことはすべて叶えたい。その思いから伴は「我々はプロフェッショナルファームであると同時に、ソリューションカンパニーでもある」と強調する。

「お客様のニーズに応えるために、自分たちの守備範囲を広げてきたのが、フェアコンサルティングの歴史です。その流れは、今後も大きく変わることはありません。世界規模でソリューションを提供できる企業となることが、私たちの理想ですから」

思えば、同社が初めて海外に拠点を作ったのも、お客様のニーズに応えるためだった。たとえ未経験の分野でも、言葉の壁があったとしても、一歩踏み出さなければ始まらない。

「言葉やスキルが完璧ではなくても、現地に行くことで見えてくるものがある。もちろん、同意のない人事はしませんし、日本でコンサルタントの仕事に慣れてから海外へ、というステップも踏みます。そのうえで、『意欲さえあれば、なんとかなる』とお伝えしたいですね」

勇気を出して踏み出した一歩が、グローバルコンサルティングファームへの扉を開いた。その道のりは、まだまだ果てなく続く。

文・井上マサキ 写真・小野奈那子
編集・杉山大祐(ノオト)

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