M&Aは、譲渡側と譲受側の双方にとって良縁であれば、本当に素晴らしい。その良縁を結ぶため、M&A仲介者は、双方を徹底的に分析し、リスクを洗い出す。あらゆる論点を先回りして整理し、双方に伴走する。このプロフェッショナルとしてのあり方を妥協せず貫くのが、2021年10月に設立されたM&A worksだ。
M&A仲介会社の都合で効率的にマッチングする姿勢に「No」を突きつける同社は、譲渡・譲受企業経営陣と血が通ったアナログな対話を何度も重ね、譲渡・譲受企業双方が幸せになる新たなM&Aプレイヤーのあり方を実践している。
今回はM&A works創業メンバーの石神大揮(以下、石神)と、ハウスメーカー、M&A仲介営業を経て参画した塙宗一郎(以下、塙)に、同社の忙しくも充実した日々とM&Aプレイヤーとしてのやりがいを語ってもらった。
近年日本の深刻な社会課題のひとつとなっている後継者不足の解決策として、広く認知されるようになったM&A。会社や事業の売買、合併・統合、事業提携による協業などを行うための仲介・支援を行う企業は、関連企業を含めるともはや3,000社を超える。
ただ後継者不在、事業承継の課題が山積する昨今の状況によって、ひたすら効率性を重視したマッチングが増加することは懸念すべきである。表面的な決算書の数字のみに基づき、機械的な作業でM&Aの支援をする会社が増えるほど、業界全体のネガティブイメージは加速していく。
M&A worksは、こうした風潮に警鐘を鳴らし、風穴を開けようとしている。同社は顧客を徹底的に分析する文化を標榜し、決算書だけでは知り得ない譲渡企業の強みや特性を言語化し、譲受候補先企業へ適切に提案する。
また、安全なM&Aを実現するため、徹底的に準備を行い、それが結果的に杞憂に終わっても構わない、という姿勢で支援する。なぜなら、M&A仲介会社の僅かな準備不足が原因で、M&Aが破談になるなどあってはならないからだ。
果たしてこの姿勢を展開することで、譲渡・譲受企業はどのようなメリットを受けるのか。そして働き手はどのような充実感とやりがいを手にするのか。
──石神さんのキャリアパスと現在の業務内容について教えてください。
石神大揮 M&A works マネージャー
石神 私はかつて理学療法士として起業し、M&Aで譲渡した経験があります。その後入社した医薬系企業では、譲受側の立場で数多くのM&Aを経験しました。M&Aの当事者として順調にキャリアを歩んできましたが、突然大病を患い、1年半の闘病生活を送ることになりました。
現在は無事寛解したのですが、30代にして「死ぬかも」と思った体験は、私の人生観を大きく変えました。「一日一日を真剣に生きる」。ありふれた表現ではありますが、これを心から実践しています。お客様に対しても、お客様が実現したい夢や目標と真剣に向き合い、人生に寄り添いながらM&Aのご支援をさせていただいています。
M&A worksの創業社長である安藤とは、もともと親交がありました。そのため、創業前に安藤がどのようなM&Aをしてきたのか、創業するM&A worksをどのような文化にし、何を大切にしていきたいのか、を聞いていました。私はM&Aを譲渡側でも譲受側でも経験し、M&Aの素晴らしさもM&A仲介の課題も感じていたなかで、M&A worksは私の理想を実行できる会社になると確信し、創業メンバーとして参画しました。
当初はM&Aのトッププレイヤーである安藤という圧倒的な存在のもと、1年間はとにかくがむしゃらに仕事をしました。M&Aプレイヤーとして、M&Aや税務、財務、労務、法務、ありとあらゆる知識のキャッチアップを図りながら、実務をこなしていくのは本当に大変でした。
ただ、M&Aはお客様の人生を預かっている仕事です。「もっといい提案ができないだろうか」「考え漏れはないか」と思うと、考える時間はいくらあっても足りません。こうした状況は、お客様と真剣に向き合えている証拠でもあるんだ、と私は考えます。M&Aの成約後、「石神さんは本当にやりきってくれた。自分がもう一度譲渡することはないとは思うけど、もし譲渡するとしたら、また石神さんにお願いしたい」と声をかけられたことがあります。そのときは報われた気持ちで胸が一杯になりました。
M&A worksでは、税務、財務、労務、法務あらゆる角度から専門家と共にチームでその企業の事業の知見を深めていきます。1人ですべてを担当するM&A仲介会社が多いなかで、私たちは必ずチームを編成します。なぜなら、複数で分析することで、企業を良い方向に成長させる多様なアイデアが生まれると考えるからです。
たとえば先日、譲渡を希望されていた企業の支援をした際、その経営陣が交換した名刺をすべて洗い出し、すべての方々にその企業を通じてコンタクトを取るという機会がありました。すると、過去に名刺を交換した方の多くが大手取引先のなかで出世されるなど、取引を拡大するうえで重要な役割と権限をもっていることが分かり、ビジネスに発展する可能性が高い状況だと仮説を立てられました。これを1つの要素として譲受候補先へ提案し、その後、非常にいい形でM&Aが成立しました。
このように、各企業がもつ付加価値をしっかりと提案に組み込むことこそが、M&Aのプロフェッショナルとして重要な要素であり、私にとっては非常にやりがいのある仕事だと思えるところでもあるのです。
──塙さんはどのような思いで、M&A worksに入社されたのでしょうか。
塙 宗一郎 M&A works
塙 ハウスメーカーの営業職として7年勤めていたのですが、ある日、取引先工事会社が後継者不在で黒字倒産するのを目の当たりにしました。黒字なのに倒産してしまう。そんな会社を救うにはどうしたら良いのだろう。そう考えていくうちに、がぜんM&A業界に興味が湧きました。
まずは金融系のM&A仲介会社でM&A仲介営業を経験しました。ただ、大きな看板を背負っていることと、成約のスピードが重要視される環境で、お客様との対話は決して十分なものではありませんでした。
ときには「この仕事は自分ではなくても進んでいくのではないか」と虚しく感じるようになることもありました。そこで転職を決意し、M&A worksに参画しました。
魅力に感じた点は2つあります。まずは「教育制度の充実」でした。社内教育に関しては、これまでは「上司ガチャ」ではないかと感じてしまうことが多々ありました。能力が高く教育熱心な上司なら良いですが、そうとは感じられない上司についてしまうと成長の機会が少なくなってしまう可能性を感じていました。
その点、M&A worksは、どの上司についてもしっかりと成長できる環境が整い、知識やノウハウを吸収できる仕組みが整っています。
基礎的な教育内容としては、「事例の研究」が挙げられます。こう言うと、決算書の状況に対して株価がいくらだったのか、M&Aを進めるうえで論点になったことは何だったのか、とテクニカルな部分を想像するかもしれません。ですが、オーナーがM&Aを進めると決断したときの思い、社内のキーマンにM&Aを開示した際の心境など、オーナーの悩みや感情の起伏、ウエットな部分もしっかり理解できるような構成になっています。会社を譲渡されるオーナーにとってM&Aは人生に一度きりの場合が多く、きめ細かな支援をしたいというM&A worksの考えが表れていると思います。
もう1つ魅力に感じたことは、「M&Aの常識を変える」という志です。ここならお客様を丁寧に調べあげ、適切な提案を行う、目指すべきサポートができると感じたのです。
前職は、個人事業主の集まりという感覚で、教育環境には恵まれませんでした。日常の業務においても、一人で案件すべてを担当しているので、横の連携などはあまりありませんでした。だから事前に、少数精鋭のチームで動くM&A worksの職場を見学させてもらったとき、チーム内の連携やさまざまな相談ができる環境が、とても魅力的に映ったのです。「M&Aの常識を変える」という同じ志をもったメンバーと、互いに成長できる。それが入社の決め手でした。
一つひとつ丁寧に、まさかの事態も考慮して進めるM&A worksの仕事のスタイルは、労力も時間もかかります。体力的にキツい面もあります。ただ社員の誰もが嫌々やっているわけではないので、精神的な負担は少ないですね。
お客様に真摯に向き合った結果、没頭してしまい、曜日さえ忘れてしまうこともあります。ただそうした部分も含めて、自己成長を感じられて、やりがいを感じることができています。もっと突き詰められることがあるのではないか。その思いに日々突き動かされている感覚です。
早くM&Aのプロフェッショナルとして成長したい、やれることはすべてやりきりたいと考える自分のような人間には、とても良い職場だと感じています。
──最後に将来展望を教えてください。
石神 2年以上仕事をしてきたなかで、最近は自分たちのお客様をよく知るというスタンスこそが正しいと自負できるようになりました。私たちこそがスタンダードとなる時代が近づいてきていると思っています。ただマッチングするだけのM&A仲介のあり方は過去のものにしていきたい。M&Aのプロフェッショナルだからこそ提供できる真の付加価値をきちんと示していきたいです。
塙 社内でインプットしたさまざまな事柄を、きちんと現場でアウトプットできるようにしっかりと学んでいきたいです。まだ吸収すべきことはたくさんありますが、新たなスタンダード=M&A worksのやり方を身につけたプロフェッショナルとして、存在感を発揮していきたいですね。
文・Ryoichi Shimizu 写真・Masahiro Miki
編集・Akio Takashiro
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