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「僕自身は何のプロフェッショナルでもないんです。ただ、プラットフォーマーと電通デジタルとの間で何かが生まれるときには、必ずその場所に存在していたいと思っています」

Twitter、Facebook、Instagram、TikTok、LINEといったSNSプラットフォーマーと電通デジタルが連携する際に、各プレーヤーの間に立ち、プロジェクトの指揮を取る。それが、プラットフォーム部門でディレクター・グループマネージャーを務める松田健太郎の役割だ。

異なる意図を持つプレーヤーの方向性を一致させる仕事は、決して簡単ではないだろう。しかし松田は今、この役割を心から楽しんでいるという。

一見困難な仕事を“天職”と語る松田。彼はどのような人物なのだろうか。そして先の控えめな言葉の裏には、どのような想いが秘められているのだろうか。


30代前半で会社役員に。しかし「井の中の蛙ではいられなかった」


「僕、わがままなんです。やりたいと思ったことは、仕事でもプライベートでも実現しないと気が済まないので(笑)」

冒頭の謙虚な発言とは裏腹に、松田にはそんな興味深い一面があるらしい。

電通デジタルに入社する前には、インターネット広告を扱うベンチャー企業に在籍していた。会社の収益力を高めるために後に分社化する調査コンサルの事業を立ち上げるなど、課題を見つけては積極的に声を上げ、率先して解決に取り組んできた。

その凄まじい行動力は、後に松田の軸となる価値観を形成する役割を果たした。

「前職では成功体験だけでなく、失敗経験もたくさんしました。一流のプロ野球選手でも打率は3割だと思いますが、失敗したからといって足を止めるのではなく、『とにかく打席に立ち続けることが大事』という考え方は、自由にチャレンジできる環境が作ってくれたのだと思います」

30代半ばを迎えると、会社の経営の一角を担うようになった。充実した日々ではあったが、同時に自身の立場に対する少なからぬ違和感を抱くようになる。

ここで落ち着いてしまうのは何か違う。「もっと外の世界を見るべきだ」という想いに駆られた松田は、他の広告・マーケティング企業への転職を決意した。その際に最も重視したのは「提案を形にする力」だった。前職ではコンサルティング事業を通じて企業にさまざまな提案をしてきたが、今度はそれを実行する側のプレーヤーになりたいと思ったからだ。

転職先としていくつかの企業が候補に上がったが、最終的に電通デジタルを選んだ決め手は面接だった。架空のプレゼン資料をもとにディスカッションするという難易度の高いものだったが、これが意外に盛り上がったのだ。

「面接官は私の意見にきちんと耳を傾けた上で、さらに『これだったらどう思う?』と新たな視点や切り口を次々と提示してくれて、それについてまた意見を交換する。初対面の自分にここまで向き合ってくれるなんて心からすごいなと思いましたし、こういう環境で働くのは楽しそうだなと、電通デジタルで働くイメージも沸きました。

面接で感じたことは、現在の糧にもなっています。『あのとき面接で感じたように、今の自分はメンバーにきちんと向き合い、貢献できているだろうか? 』と、今も自分自身にときどき問い返すんです」

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思惑の異なるプレーヤーを一つにする、会話の力


先述した通り、松田はSNSプラットフォーム各社──Twitter社、Meta社、Bytedance社、LINE社──と電通デジタルの間に立ち、ディレクターとして各種プロジェクトを進行する役割を担っている。

具体的な業務内容は、プラットフォーム各社とリレーションを築き、プラットフォーマーの事業成長に貢献すること。そのために、クライアントの課題に沿ったオリジナルメニューや新規ソリューション開発などだ。プロジェクトは松田の所属するプラットフォーム部門のものを進めることもあれば、他部門のプロジェクトのサポートに入ることもある。

思惑の異なる両者を一つの方向性に向かわせる仕事になるのだが、当然ながらそこには大きな困難が伴う。

プラットフォーマーは売りたいサービスを有している一方、電通デジタルはクライアントに最適なサービスを提案することを最優先としているのが常だからだ。最初からお互いの考えが一致することはほとんどない。松田はこの壁を、どのように乗り越えているのだろうか。

「まずは両者共通の目的をしっかりと認識してもらいます。どちらもクライアント企業の事業成長に貢献したいというのは同じですよね。あとは、お互いに歩み寄れる部分を探して、一つひとつ課題を遂行しいていく地道な作業です。

その際に最も重要なのは『会話』です。自分は関係者と細かなコミュニケーションを常に心がけています。我々が扱うのはデジタル広告ですが、こうしたアナログな仕事の重要性は極めて高いです」

松田が会話を重視していることは、この4月に公開された電通デジタルの新パーパス「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える。」にも関係している。松田はこの一文の中に強く共感する部分があるという。

「『人の心を動かし』が第一歩となっているのは、本当にその通りだと思います。人と人との会話を通じて相手の心が動かなければ、新しいものや強いものは決して生まれませんから」

最初はバラバラだった意見がまとまり、進むべき方向性が一つに定まる。それは、人知れず細かな仕事を積み重ねてきた松田がようやく報われる瞬間だ。

「プラットフォーマーと電通デジタルのプロフェッショナルをうまくつなげられたときは、ものすごく気持ちがいいです。電通デジタルのプロフェッショナルたちが融合して、さまざまな問題を解決していく姿を見られるのは最高ですね。その素晴らしい瞬間に立ち会えることが、この仕事の最大の醍醐味だと感じます」

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「地に足がつかない話」を現実にする実現力がある


仕事への愛情、仲間への尊敬。松田の言葉からは、そうした温かな感情が感じられる。改めて電通デジタルのメンバーに対する想いを聞いてみた。

「当社のメンバーは人によって考え方が多種多様です。かといって、バラバラでまとまらないということはありません。『クライアントのために自分たちにできることをしよう』という一点は共通しており、その一点がブレないからこそ、お互いに協力し合えるのだと思います。

個人的にすごいなと思うのは、一見地に足つかないような話が出てきても『こんなことって可能ですか?』と相談すると、いつも誰かがその可能性を押し広げてくれること。これには本当に驚かされます。理想を“絵に描いた餅”で終わらせない『実現力』は、他社と比べても圧倒的なのではないでしょうか」

そんな頼もしい仲間たちと働けることが、松田は嬉しくてたまらないのだという。そして口からでた言葉が「僕は電通デジタルが大好きなんですよ。もうここを辞めたくないくらい(笑)」。

「話をしているときに、別角度からの話や、まったく正反対の意見をされることもありますが、否定されることはありません。じゃ、みんなバラバラなのかというと、日頃から『プラットフォーマーのため』『クライアントのため』といった大きな目標でつながっていて、どんな意見でも性善説で捉えて会話をしてくれる。働き方にしても、会社・リモートワークどちらでも自由に選べる。みんなが一様ではなく多種多様でいられる環境があるから、とにかく働きやすい」

松田自身も自分の好むライフスタイルに合わせて最適な働き方を選び、自身のミッションに集中する。その自由さは多忙な松田の心に一定の穏やかさをもたらしている。

「仕事は忙しいですが、特に苦だと思ったことはありません。それは好きな場所で働けることに加えて、忙しいときでも自分の状況を聞いてもらえる環境があるからだと思います。実際に自分は、上司に対して随時案件やプロジェクトの共有や相談はもちろんのこと、どんなことでも話ができる環境があります。

自分がマネジメントしているメンバーに関しては、休みたいときにいつでも休める環境を作るために、できるだけ一人だけで担当する業務を作らないようにしています。そもそも仕事は、チームでやるものですからね」

最後に今後の展望を聞くと、「ものすごく未来の計画を描いているわけではない」と、再び謙虚な返事が返ってきた。しかしそれに続く言葉からは、「自分の立場でなければできない仕事がある」と理解しているからこそ生じる、秘めた自信が伝わってきた。

「この仕事をしていると、各プラットフォーマーを横断的に見ることができます。その立場を生かして、最適なものをクライアントに提供できる強いサービスを作っていきたいですね。そして自分は、これからも常にその中心にいたいと思っています」

最大の喜びは、心から尊敬する仲間が活躍する舞台を整えること。そのためには、どんな地道な努力も惜しまない。

その姿は誰が何と言おうとも、プロフェッショナルそのものだった。

文・一本麻衣 写真・小田駿一

編集・木原昌子(ハイキックス)

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