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アスリートやスポーツ組織を資金面などで支援するスポーツ・スポンサーシップ。企業にとっては、ブランド価値向上などに効果があるとされてきた。

「しかし、ターゲット層の拡大や従業員のエンゲージメント強化には繋がっていない、という不満も企業からは多く聞かれます。また、日本企業にはスポンサーシップの権利を活用し、イベントやコンテンツ展開などをするアクティベーションも上手くできていないという問題もあります」

そう話すのはAll-GripのCEO、金子真育。そうした現状を打破するために、企業とアスリート双方にとってより価値の高い、真のスポーツ・スポンサーシップ確立を目指している。

代表的なマッチングだけでも、すでに以下を実現させている。

大正製薬とプロゴルファーの松山英樹、上田桃子。
SOMPOひまわり生命とプロゴルファーの金谷拓実。
島津製作所・GSユアサとプロゴルファーの西郷真央。
アース製薬と女子陸上選手の新谷仁美。

日本においてスポーツ・スポンサーシップは、大手広告代理店を通して結ばれる流れが一般的だ。しかしAll-Gripが仲介したこれらのマッチングは、既存の商流に則ったものではない。

同社の主な役割は、企業とアスリートを「コミュニケーション・コネクター」として直接繋ぐこと。スポンサーシップを媒介として、企業とアスリートそれぞれの課題を解決しようとしているのだ。

日本では珍しいこのビジネスモデル。どういうきっかけで取り組むようになったのか。金子のキャリアを辿りながら、解き明かしていく。


人生を変えた、トップアスリートのマインドセット


金子とスポーツとの関わりは深い。金子は中学1年生でゴルフをはじめ、ベストスコアは65、ドライバーの平均飛距離は300ヤード。学生時代、本気でプロを目指していた。途中で挫折するものの、ゴルフへの熱き想いを就職活動にぶつける。

選んだのはTBSテレビ。理由はシンプルだった。

「マスターズの中継がしたかったんです」

「ゴルフの祭典」と称されるマスターズ。世界トップクラスの選手しか出場できないゴルフトーナメントだ。開催される米オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブには、プロ・アマ問わず世界中のゴルファーが憧れを寄せる。

金子は入社後、陸上競技を中心に世界陸上、世界バレー、サッカーのワールドカップ、オリンピックなどの番組制作を担当。入社3年目には念願を叶えてゴルフ担当のディレクターになり、マスターズにも3度、中継と取材のために足を運んだという。

そうした様々なスポーツの現場での経験が、金子の人生に大きな影響を与えることになる。金子は多くのアスリートを取材し、向き合う中で、トップアスリートならではのマインドセットに強烈な刺激を受けたという。

ひたむきに目標を追いかけ、失敗も力に変えて成長し続ける姿。つねに内省し、心技体を高め続けるストイックな精神。支えてくれる人々への感謝の気持ち。

それらは金子が仕事に向き合う姿勢を正すとともに、極限まで己を追い込むアスリートの力になりたい、と思うきっかけにもなった。

「当時は、良い番組をつくることしか考えていませんでした。ところが数年後に営業へ異動し、『どう表現するか』から『いかにお金を稼ぐか』へ急転換。スポーツビジネスに対する理解も大きく広がりました」

そんなとき、転機が訪れる。史上最年少でアマチュア優勝を果たし、話題を集めていた女子プロゴルファーの勝みなみから、マネジメントの相談を受けたのだ。金子はディレクター時代から取材などを通じて、勝と交流を深めていた。

テレビの世界で生きていこうと思っていただけに迷った金子だが、「目の前で困っているアスリートの力にならなくてどうする」と一念発起。スポーツビジネスの世界でプレイヤーになってみたいという気持ちもどこかにあったのだろう。TBSテレビを退職し、All-Gripを立ち上げた。

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選手は広告を売る道具ではない。企業とストーリーを描き経営課題を解決する


起業の経緯からわかるように、All-Gripは当初、マネジメント会社であり、スポーツ・スポンサーシップのビジネスには関わっていなかった。しかし、金子は徐々に違和感を覚えるようになる。

「アスリートやスポーツ組織が資金調達をするうえで、スポンサーシップの獲得は非常に重要です。しかし、日本の場合はスポンサー企業とアスリートの間に良くも悪くも多くの企業や人が入っています。

そうなるとスポンサー企業とアスリートが、互いを理解したくてもできません。結果として情報の非対称性が生まれ、コミュニケーションのスピードも遅くなっていました」

間に立つ人がアスリートや競技をしっかりと理解しているならばまだいい。単なるビジネスの“ネタ”となってしまっているケースも多いという。スポンサー企業にとっても、アスリートにとっても良くない状況だ。

「現在、スポーツ・スポンサーシップに興味を持つ多くの企業とやりとりさせていただいていますが、『今まで提案を持ってくるのは、競技を知らない人が多かった』とよく聞きます。明らかにゴルフを知らない人が、プロゴルファーのスポンサーシップを仲介する。選手のネームバリューとお金を交換しているだけのようにも感じました」

そういった現状を生み出した背景には、日本のスポーツ・スポンサーシップの主流が、企業や製品などの認知度向上を目的とした広告モデルだったこともあるだろう。

有名アスリートをCMに起用すれば、企業イメージが向上し、業績アップに繋がる──。その論理は、もはや必ずしも通用するとはいえない。なぜならば、ビジネスを取り巻く環境は激変し、投資対効果を気にせずスポンサードする企業は減ってきているからだ。

しかも、世界のスポーツビジネス関連市場は今や100兆円超と巨大化し、日本政府も成長産業化を促している。それまでスポーツと関わりがなかった企業も、自社ビジネスとの結びつきを検討する時代になったのである。金子は、そのトレンドを敏感に察知した。

「企業の経営課題とビジョン、そしてアスリートの価値とビジョンとを結びつけることが求められていると感じました。そのために私たちはただ仲介するのではなく、徹底的に双方に向き合い、企業とアスリートを繋ぐ『コミュニケーション・コネクター』として、これまで日本のスポーツ界にはなかった存在価値を発揮する必要があります」

スポーツやアスリートの価値と自社のビジネスを掛け合わせる。かなりのシナジーが期待できそうだと考えても、どうすればいいかわからないという企業は多い。そうした企業のニーズを引き出し、アスリートとスポンサー企業がスポンサーシップを通じてシナジーを生む道筋を描く役割を果たす。これが、金子の生み出したビジネスモデルである。

「アスリートとスポンサー企業がどんなストーリーとパーパスを描けるか。Why・What・Howを徹底的に考え、具体策を提示する。このプロセスを最も大切にしています。そのアスリートの価値とビジョンが企業の課題解決に貢献すると理解いただくまで、無理に話は進めません」

金子の姿勢は、アスリートに対しても変わらない。ただお金を得るのではなく、自身の価値がどう活用されるのか、理解を求める。そうすることでアスリートによるスポンサー企業へのコミットを促し、企業の理念にそぐわない行動を未然に防げるというわけだ。

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「いい仕事」を会社のパーパスにしている理由


ただし、そこまで辿り着くには時間も手間もかかる。企業ともアスリートともコミュニケーションを深め、双方の思いを代弁できるほどの存在になる必要があるからだ。「スポンサーシップ契約の締結まで、1年近くかかるケースは珍しくない」とこともなげに金子は明かす。

「仕事をするうえで、手間ひまを惜しまないのは当然のことです。TBS時代に培われた財産のひとつです。いい番組を制作するには、現場に足を運ぶ。そして“使わない”とわかっていても取材を積み重ね、取材対象者と信頼関係を築くことが何よりも大切だと学びました」

どこまでも“質の高さ”を追求する姿勢。それは「いい仕事」というパーパスにも表れている。

「クライアントやアスリートによって、何が『いい仕事』なのかは異なります。しかし、つねに『いい仕事』とは何かを考え、そこに向かって行動すれば、自ずと真摯かつ謙虚な取り組みになると思います」

前述のように、スポンサーシップの権利が上手く活用されていない現状を変えようとしているのも、「いい仕事」を貫きたいからだ。

すでに、ゴルフトーナメント運営や動画コンテンツ制作などで権利活用(アクティベーション)の事例を積み上げてきた。TBSテレビ時代の経験を生かし、企画から制作、中継配信まで、自社でスピーディかつリーズナブルに手がけられるのも大きな強みといえる。

「嬉しいのはコスト面だけでなく、企画段階から一緒に考えていくことについても、クライアントに価値を感じていただけていることです。ブランディングやマーケティングを専門会社に丸投げするのではなく、重要な経営課題として取り組みたいと考えている企業が、増えていると感じますね」

だからこそ、“新たなスポーツ・スポンサーシップのあり方”を確立しなければならないと金子は力を込める。

「スポーツには無限の可能性があると私は信じています。例えばゴルフは老若男女を問わず世界中で楽しめますから、ダイバーシティ経営や健康経営との親和性も非常に高い。そういった文脈で企業とアスリートを繋ぐことで、社会をより良くするお手伝いがしたいと思っています」

そのためのメンバー育成にも、力を注ぎはじめていると金子。「人生100年時代」といわれる今、スポーツの重要性はますます高まっている。企業とアスリートを繋ぎ、双方の価値を社会に発揮させていくAll-Gripが果たす役割は、想像以上に大きなものとなるかもしれない。

文・高橋秀和  写真・小田駿一

編集・大柏真佑実(Forbes JAPAN CAREER)

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