「『何をもって働き続けるのか......』この問いに対しては、20代後半~30代は思案に暮れる方が多いですね。労働そのものに集中しているケースが多いですから。反射的に『顧客のために』と回答しても、丁寧に深掘りしていけば、その人の本質が見えてきます。
利他の精神を主眼に置く当社としては、この問い掛けこそ、“共に働きたいコンサルタント”を探す術なのです」
コダワリ・ビジネス・コンサルティングの創業者、大谷内(おおやうち)隆輔はそう語る。
彼が代表を務めるコダワリ・ビジネス・コンサルティングは、2009年に創業。以来、規模の拡大にとらわれない、独自の成長路線を築いてきた。
「他業界からのフィーで成り立っているコンサルティング業界ですから、私たちが日本のマーケットで勝ち過ぎるのは道理に合わない。何よりも優先すべきは、クライアントへ貢献することなのです」
穏やかな口調だからこそ印象に残る、ストイックさ。
経営者であり、コンサルタントでもある大谷内“ならでは”の、こだわりに迫りたい。
── 拡大路線を追求しない
── 事業に人が集まるのではなく「人が事業を創る」会社を目指す
── 社員の自立性を育てながら、共に幸せを追求する
コダワリ・ビジネス・コンサルティングが掲げる基本方針は、全てにおいて曖昧さがない。なぜなら、同社は大谷内自身のビジョンそのものであり、創りたい組織そのものだからだ。
新卒入社で外資大手コンサルティングファームに在籍していた大谷内。社長からも目を掛けられる生え抜きの幹部候補生として順調なキャリアを歩んでいた。しかし、ある日を境に「自分はずっとこの環境にいていいのだろうか?」と自問自答するようになる。
「入社して3年目の頃ですかね。自社の成長戦略を考えるプロジェクト会議に参加して、あれこれ議論していた最中に、ふと『これって予定調和、出来レースの世界だな』と感じてしまった時があったのです。
この頃になると、同期も事業会社や自身のキャリアを描いて転職というのも数多くあり、何がための企業活動・働くことかと強く考えるようになりました。
合理主義、拡大路線を追求するのは、経営手法としては正解なのですが、果たしてここにいる社員は幸せになれるのだろうか、と」
事業に人が集まるのではなく、人が事業を創造し続ける組織を創りたい。社員が夢を実現する環境をつくりたい。そうして、皆で“働く”をもっと楽しみたい。──そう思った瞬間、脳裏に浮かんだのは、趣味を通じて知り合った創業社長たちの姿だった。彼らの快活さに引き寄せられるように、大谷内は起業を決めた。当時27歳だった。
起業してから数年。コダワリ・ビジネス・コンサルティングは、顧客のみならず、“同業者”にも選ばれるコンサルティングファームとなった。
大手コンサルファームからのパートナー相談、フリーのコンサルタントとの協業、新規にコンサル事業を立ち上げたい大企業からの相談。
「同業からは、進行中の案件について『課題に対してゴール設定は合っているか』など細かな相談を受けることも多く、長年のノウハウから同業からのクライアントの紹介にもつながっています」
また、コンサルティング業界への俯瞰的な造詣の深さが評価され、老舗出版社からも業界実用書の執筆依頼などがあるという。
同業者からも一目置かれる存在となった所以は、大谷内ならではのこだわりにあった。
“こだわり”という言葉を辞書で引くと「一つのことについて強く思い入れたり、執着したりすること」とある。
しかし、コダワリ・ビジネス・コンサルティングのこだわりは、一つに留まらない。大谷内の考える真のコンサルティングとは「クライアントの経営理念に即し、経営の実現を行なう触媒」。この役割を全うするため、クライアント、社員、採用、教育......と全てにおいて強い思い入れを持つ。
例えば、受注するプロジェクトについて、「経営、人事組織、業務、ITとさまざまなコンサルティングの依頼が寄せられますが、基本は私たちが“魅力的だと思う案件”のみをお受けすることと決めています。
私たちが魅力を感じるポイントは主に二つ。一つは、クライアントのモチベーションが高いかどうか。世の中には『社員のやりたがらない仕事をコンサルに丸投げする』というケースも残念ながら散見されます。
しかし、それでは両社間の信頼関係が築きにくく、本質的な課題解決が難しい。なので、どんなにフィーが高かったとしても、先方の想いが伝わってこない仕事は基本お断りしています。
二つ目は、新規事業や全社改革、DXなど全体を俯瞰しながら進行できる案件かどうか。コンサルタントがやりがいを感じやすく、それが結果として業務の質向上につながるからです」
しかし、この二つが満たされていてもフィーが足りない依頼もあるだろう。その場合、どのように対応するのか。少し意地悪な質問をぶつけてみたが、非常に合理的な答えが返ってきた。
「提案の切り口を変えますね。例えば人材育成の相談であれば、他社の安価な研修コンテンツを組み込みながら、効率的に教育できる仕組みづくりを提案する、とか。できる限りのことはやります。
フィーによらず、クライアントには、より自分事として捉えていただくことを大切にしています。時にはご自身で解決いただくよう促すことも。それが、改革の醍醐味を知り、モチベーションを高める一番の手立てですから」
人づくりによる会社づくりを実現したい。人が事業をつくる会社にしたい──そのため大谷内は、経営方針の遂行と社員育成に尽力してきた。
「売上高・利益率・社員数など拡大路線に傾倒しないという方針の下、社員の思考力を育て、自主性を尊重するよう努めてきました。具体的には“徹底した成長機会”を提供するようにしていて、
研修制度のほかに、自社の新規事業について話し合う社内会議体『Avengers』や、経営者懇親会などで視点を取り入れるようにしています」
コダワリ・ビジネス・コンサルティングでは、コンサルティング事業のほか、教育事業・人材紹介事業を展開している。コンサルに特化した人材紹介事業「コンサルキャリア」は「Avengers」で立案され、2018年に事業化された。
「社内会議体以外にも、コミュニケーションの場は積極的につくるようにしています。会話では『フラット&タブーレス』を厳守としているので、社長である私の前であっても本音がバンバン出てきます。時には『コンサルがやりたいのか分からない』とぶっちゃける社員も。その発言がきっかけで、新たな事業の種が生まれたりするから面白いですよね」
仲間を尊重しながら共に成長機会をつくり、互いを認め合う。クライアントから評価されることで、自らの成長を実感できる......こうした“働くを楽しむ”環境づくりも、大谷内が日ごろから意識していることだ。
「社員同士でも、将来成し遂げたい事業などをよく語り合っているようです。私が言うのもなんですが、本当に仲がいいのです、うちのメンバー」
コダワリ・ビジネス・コンサルティングの経営理念は「GNH(国民総幸福量)の量産にこだわる」。幸せの源泉となるために、大谷内は「人」に最もこだわっていると断言する。無論、採用活動にも余念がない。
「面接ではスキルよりもその人自身の思考を重視しています。必ず聞くのは『将来どうなりたいか』と『コンサルタントとしてのキャリアパスについて』。
自分ありきの回答をする人はそこに確固たる信念がないとモチベーションが持続しづらい。一方お客様をはじめ他者への貢献を考える人は、何よりも幸福度が上がりやすい。このことは国内外の実証実験でも立証されています」
既存事業のみならず、新たな取り組みにも精力的な同社。今後は、研修事業やヘルスケア事業のほか、他社への投資と経営参画などを予定しているという。
「2017年に実施した国際比較調査によると、職場環境を評価する日本の労働者は5.4%と世界最低。つまり、日本の会社は世界で1番ギスギスしているらしいんです。そもそも日本人は嫌々働くという気持ちが強い。だからこそ、うちの会社の社員には“働くを楽しむ”を実感しながら幸福度を高めていってほしい」
最後に、自身が最も楽しい瞬間について問うてみると、大谷内は「解決難度の高い課題に対する戦略と戦術を描いている時ですかね......」と一言。彼は経営者であり、コンサルタントなのだと再確認した。
文・福嶋聡美 写真・小田駿一
【編集後記】 編集・後藤亮輔(Forbes JAPAN CAREER 編集長)
90分という時間は長い。
しかしそうと感じさせない、濃密でテンポのいい90分だった。
大谷内氏はさまざまなことを洗いざらい話してくれた。
残念ながら字数の関係でその全てをここに収めることはできなかった。ただ、ここまで読んでいただいた読者の方ならわかるだろう、インタビューは極めて真っ直ぐな話に終始していた。
そういえば、同社のメンバーの方々からこんな話をされたのを思い出した。
「オンラインもいいですが、大谷内の魅力は対面だとより伝わるんです。空気感とか」
今、この編集後記を書きながら、少し「ハハッ」と笑ってしまった。まさにその通りだからだ。オンラインでも十分に素敵な人だった、少しミステリアスさはあったが。しかし対面でその秘めたものが全て見えた。
いいボスがいれば、組織はやっぱり良くなるものだ。改めてそう思えた90分でもあった。