人生には、いくつか取り返しのつかないことがある。
誰もが圧倒的な成長を遂げる可能性のある二十代前半に、ビジネスパーソンとしてのスタートダッシュを切れるかどうかは、その一つだろう。
「何歳からでも成長できる」と人は言うが、若い頃の成長がその後のキャリアの明暗を分けることは、誰も否定しようがないのではないか。
その現実から目を背けることなく、地方大学に通う学生の就活支援を行なうのが、福岡に本社を置くCreate Grow Corporationだ。
同社のプログラム受講生には有名大学ではない大学に通う学生も多いが、卒業生は日本M&Aセンターなどの有名企業の内定を続々と手にしており、入社後は新人賞やMVPを取得するケースが後を絶たないそうだ。
地方の学生に圧倒的な成長機会を提供するCreate Grow Corporationとは、一体何者なのだろうか。「若者の力で社会を発展させる」という旗を掲げる若き経営者たちが描く、日本の未来とは。
「なんとなく授業を受けて、なんとなくバイトをする。そんな目的意識の低い大学生活を送ってしまっている学生は、意外に多いと思います」(谷川)
Create Grow Corporation代表の谷川翔太は、地方大学に通う大学生が置かれている状況に、自らの過去を重ね合わせる。
自然豊かな熊本県・天草諸島で生まれ育った谷川は、大学進学時に初めて福岡に上京した。電車の乗り方がよく分からず、学友にからかわれたことは今でも覚えている。地方と都会の差を痛感するたびに自信を失い、気付けば大学生活のほとんどをコンビニでのアルバイトに費やすようになっていた。
しかし、そんな自分に満足していたわけではない。単調な日々を繰り返すうちに「人に誇れるものがない。こんな自分を変えたい」という想いは、本人も無視できないほどに大きく膨らんでいった。
運命の分岐点は、偶然によってもたらされた。大学の先輩が起業した会社で、谷川はインターンとして旅行商品やインターネット機器の営業をする機会に恵まれたのだ。
そこで待っていたのは、今まで知らなかった自分との出会いだった。目標を達成するために誰よりも粘り強く取り組み、自他ともに認める成果を上げた時、彼は生まれて初めて自分の長所を自信を持って語れるようになった。
紛れもなく、谷川の「人生が変わった」瞬間だった。
代表取締役 谷川翔太
インターンの経験は企業から高く評価され、就活は順調に進んだ。内定先への就職も考えたが、谷川は目の前に開けた道を進む前に、自分がかつて通り過ぎた人生の分岐点の、もう一つの道に進まざるを得なかった学生たちのことを考えたのだった。
「あの時自分は“たまたま”先輩に誘ってもらえたので、人生を変えるチャンスを手に入れました。でも、機会に恵まれなかった学生は、自分に自信を持てないまま社会に出ていくことになる。偶然手にした成長の機会を、全ての学生が得られるようにしなければならないと思いました」(谷川)
ビジネスパートナーに選んだのは、大学時代の友人で現在同社の取締役を務める平田将也だ。
平田もまた、谷川と似たブレイクスルーを学生時代に経験している。就活時に周囲とのレベルの差を痛感し、一年間休学して通信会社の営業代理店で働いた。復学後、就活では敵なしの評価を受けるに至ったが、平田はそのどこにも就職せずに谷川のオファーを引き受けた。
「『若者の未来を変える機会を提供する』というビジョンに強く共感したんです。若者は、機会さえ与えられれば自分の力で未来を変える力を持っています。若者の力を信じて支援することで社会に貢献するビジネスを、谷川と作っていきたいと思いました」(平田)
無為に大学生活を送ってしまっている学生の多くは「このままではいけない」という焦りを抱えていると、谷川らは見ている。
今の自分のままでは、納得できる進路選択はできそうにない──。そんな悩みを抱える地方の学生に“人生を変えるチャンス”を提供しているのが、同社の就活支援プログラムだ。内容は「社会を知る」「スキルを磨く」「会社を選ぶ」の3つの要素から構成されている。
順を追って説明すると、同社はまず、世の中の流れや会社の仕組み、各業界の特徴などを有識者に語ってもらう講演を開催し、学生たちに「社会を知る」機会を提供する。
次に、会社で働く際に必要な「スキルを磨く」活動ができる場を設ける。学生は就活支援事業のほか、同社が請け負うインターネット販売代理店の仕事をインターンとして経験できる。
そして最後に、学生が希望の「会社を選ぶ」支援をする。谷川らは広告、人材、不動産業界の企業を中心とする約20社の提携先に人材紹介を行なうが、学生は自らの意思でそれ以外の企業を受けることもできる。
Create Grow Corporationの事業収入は、人材紹介料と学生のインターン活動による代理店手数料から発生しているため、学生はこれらのプログラムに参加する際に料金を支払う必要はない。
こうしたサービスは、地方大学に通う学生にとって大きな意味を持つと、谷川は考えている。
「全ての学生にとって当社のサービスが必要というわけではないと思います。特に東京には、我々が提供しているような機会を自ら掴みに行ける学生は多いでしょう。ただ、その学生たちがアクションを起こせるのは、十分な情報を得られる環境にいるからではないでしょうか。
地方の学生は、どうしても東京の学生より得られる情報が少なくなりがちです。すると必然的にアクションの数も減り、納得のいく進路選択は難しくなってしまう。こうした悪循環が起こりやすい環境では、学生に十分な『情報』や『機会』を与える存在が必要です」(谷川)
谷川らが作り出した機会を最大限に活かして成長した学生たちは、日本生命やADWAYS、住友商事、日本M&Aセンター、レバレジーズなどの有名企業への就職を果たしている。
そして冒頭でも述べた通り、新人賞やMVP、ベストセールス賞などの獲得者が続々と誕生するに伴い、同社の紹介する学生を特別な存在として扱う人事が増えているそうだ。Create Grow Corporationは「地方における優秀人材の輩出企業」と見なされつつある。
こうした密な関係性を有名企業と構築できた背景には、地方学生の採用ニーズの高まりがあると谷川は考えている。「わざわざ上京して働く地方出身の新卒社員は、都会出身の学生よりも成長意欲が高い傾向がある」という評価は、どの企業でも安定しているという。
谷川らのように「地方の優秀人材」と「都心の企業」のハブとなるプレーヤーの発足は、企業から長く待ち望まれていたことだったのかもしれない。
取締役COO 平田将也
就活市場におけるCreate Grow Corporationの役割を考えると、彼らは単に「学生の自己実現」のためだけに存在しているわけではなさそうだ。
「若者の力で社会を発展させることに貢献する」というミッションに込めた想いを、谷川は次のように語る。
「若者が成長するスピードは本当に速いです。特に20代前半の頃に知識を吸収し、アクションを起こしていく推進力には凄まじいものがある。そんな若者が自分自身のキャリアに本気で向き合えば、日本企業を引っ張るほどの大きな力になれるはず。新卒社員の即戦力化によって、日本経済の底上げに貢献できると信じています」(谷川)
同社のプログラムを受ける学生の数は、2021年に年間200人を超えた。これまで学生の認知は卒業生の紹介を中心に獲得してきたが、昨年からHPのSEOやSNS運用を強化しており、さらなる母数の拡大が見込まれる。
今後は九州地域の外にも支社を展開し、全国の地方学生に対するプログラムの提供を目指している。全国の地方大学に通う若者が同社のプログラムを知るところとなれば、学生にとっても企業にとっても、これほど喜ばしいことはないだろう。
彼らのビジネスがいかに大きなインパクトをもたらす可能性があるかを理解したところで、思い出してほしい。二人はかつて「何の取り柄もない」とうつむく大学生だったことを。
どこで生まれ育とうと、どんなコンプレックスを抱えていようと「成長したい」という強い気持ちがある限り、誰もが日本の未来を変えるほどの存在になれる可能性がある。
若々しくも頼もしい彼らの背中は、その事実を自らの成長をもって社会に示そうとしている。
文・一本麻衣 写真・小田駿一
【編集後記】 編集・後藤亮輔(Forbes JAPAN CAREER 編集長)
私事で恐縮だが、これが編集長として最後の取材であった。
最後が同社の取材で本当によかったな、と改めて感謝を申し上げたい。
谷川氏は熊本、私は宮崎、同じ九州出身である。
都市部生まれの方にとっての当たり前は、我々には驚きだった。電車の本数、人、情報量、誘惑......田舎で過ごしていた時の何十倍である。
若いうちはとにかく人と比べてしまった自分がいた。劣等感を覚え、殻にこもる自分と反骨心に燃える自分、2つの人格と付き合っていた。
要は自信がなかった。自信を持つには、経験をすることと成果を出すこと、これが一番の近道だった。私は20歳から、まだ珍しかったインターンに没頭した。
今はインターンも当たり前になったしネットも当たり前である。ただ、経験を積める場所というのは意外と見つかりにくい。それは都市部ではなく、地方学生にとってだ。
だからこそ同社を応援したい。格差を取っ払い、フラットなスタートラインを用意してくれるからだ。
派手ではないかもしれない。ただ、自分と同じ思いを他の人にもさせたくない。
そんなピュアな想いをもつ起業家を、これからも私は応援していきたい。