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「誰かに教えを乞うよりもまず、自分でやってみる主義ですね。でもどんなに努力してやり切っても、力が及ばない分野はある。そういう意味での“失敗”は数多く経験しています。こうした失敗を繰り返してこそ、人は大きくなれると僕は信じていて」

発言の主は、テイラーアップでCEOを務める松村夏海。24歳の若き経営者は、想像以上に達観していた。

祖父、父は共に経営者。7歳からアイスホッケー選手として鍛錬を続け、高校2年で全国大会に出場。ベスト8入りを果たした。大学ではアメリカに留学し、英語力を身に付けた。そして卒業後は一般企業に就職せずに起業......松村の経歴をなぞると、一見何の憂いもないように見える。

「いや、全くトントン拍子ではなかったですよ。むしろ紆余曲折の人生。周囲から『お前には無理だよ』と嘲笑されながら、何とかここまで這い上がってきた感じです」

彼が営むテイラーアップは初年度から黒字経営を叶え、2期目の今はライブコマース事業で急成長を遂げている。「30歳までに上場」を明言する、松村の原動力に迫りたい。

ライブコマース市場は、必ず成長する


「大学2年で単位を取り切った後は、朝から晩まで鬼のように働きました。PR会社やライブコマース関連会社で学んだ商流が、今のビジネスに生きています」

テイラーアップは2020年7月に創業。ライブコマースをはじめ、SNS、WEBなどデジタルコミュニケーションの設計から企画、実行フェーズまでワンストップのサービスを展開している。創業間もないスタートアップ企業ながら大手企業からの信頼も厚く、クライアントは広告代理店、メーカー、鉄道会社、商社と実に幅広い。

「意外に思われるかもしれませんが、最初はテレアポで地道にアプローチをしていきました。実際、ライブコマースに興味・関心がありつつも、成果の出し方が分からないと悩む大手企業は多いと考えていて。説明する機会さえもらえれば、一定数受注できる自信があったんです」

同社が主眼を置くライブコマースは、隣国中国に比べ、日本では今一つ盛り上がりに欠ける。また、テレビの通販番組とも差別化しにくいイメージがある。

日本貿易振興機構(ジェトロ)のレポートによると、中国の2021年のライブコマースの市場規模は日本円にして約35兆円の見込み。対して日本は、BtoCにおけるEC市場で20兆円弱(2020年/経済産業省調べ)。比較対象として異なるが、明らかに足元にも及んでいないことがうかがえる。松村はどのようにして、活路を見出したのだろうか。

「中国との違いを踏まえた上で、“日本の消費者”が人やモノに紐付けてライブを見る理由は何かを追求しました。全体の構成やキャスティング、演出の独自性です。ちょっと詳細はお話しできませんが(笑)、ここまで多角的かつ綿密にコンテンツを組み立てている企業はほかにないと自負しています。

そもそも中国と日本では、ライブコマース市場におけるフェーズも買い物をする環境も全く違います。実店舗での接客文化が根付いている日本に、Eコマースが盛んな中国の様式をそのまま持ってきても上手くいく可能性は極めて低い」

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クライアントに伴走しライブの実施回数を増やしながら、『観られない、売れない』と悩んでいたクライアントの“成功体験”を徐々に増やしていったという松村。ちなみに、通販番組との違いはどこにあるのだろう。

「ライブ中に、視聴者からの疑問や不安を解消できる即時性が最も大きな違いではないでしょうか。こうした特性を活かすべく、私たちとしては構成を作り込まないことを常に意識しています。ライブならではの偶発性を生み出しながら、“イマ・ココ”でしか味わえない顧客体験を創出するのが狙いです」

コードレス掃除機や健康器具など通販番組でも馴染みのある商品のほか、高級化粧品やお菓子の限定商品まで。独自の方程式で、期待を上回る販売額を上げ、数多くの有名企業から信頼を獲得してきたテイラーアップ。契約数はまさにうなぎ上りだ。

「無理だよ」「やめておけ」......全ての否定を超えた男がつくるカルチャー


ここで一つ、伝えておきたいことがある。松村は、時流を読むのが上手いだけの経営者ではないということだ。若い=派手という偏見を持つ方も少なくないが、彼の経営手法は手堅く、慎重さを極める。

「今のところ、全て自己資本で賄う無借金経営を貫いています。必要もないのに金融機関から借り入れをしたり、会社をただ大きく見せるためだけに他者から資本を入れてもらうことに、全く興味がないんです。例えば、資本業務提携など特別な理由があれば話は別ですが。

売上は常に最低ラインを見込んでいます。1期目は事業計画書の売上予測を低く見積もりすぎてしまって大幅に上振れさせました。結果、4回書き直しましたね(笑)」

本質から外れることは一切やりたくない、と言い切る松村。初めて起業を意識したのは、彼が高校生の時だった。大学で就職活動はしたものの、『自分がいなくても回る組織に入りたいのではない。自らの手で組織や事業を動かしたい』と確信し、退路を断つため“新卒カード”を捨てた。

夢を現実のものとした今、自社を成長させる原動力は一体何なのだろうか。

「一番は反骨心、ですね。これまで頭ごなしに蔑まれた悔しさがバネになっています。

『お前の実力じゃ駄目だ』『若いから無理だ』......高校のアイスホッケー部、大学時代のアメリカ留学と幾度となく、言葉に表せないほどの屈辱を味わってきました。ただただ“見返したい”一心で、全国強豪校のレギュラーの座やビジネスレベルの英語力、期待以上の営業成績を勝ち取ってきたんです。このスタンスは今も昔も変わりません」

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自分のように理不尽さに苦しむことなく、個の力が発揮される組織をつくりたい──

松村のこうした想いから、テイラーアップには「誰もが平等に打席に立てる」、「実績を正当に評価する」文化が確立しつつある。

「中には、この半年で年収が200万円アップしたメンバーもいます。彼は経営者の僕よりも高給です(笑)。

社員10人のフェーズですから確固としたルールはありませんが、人事権や決裁権などの権限は全て組織に渡しています。評価が真っ当な分、その重責を理解し、自発的に動ける人じゃないとかなり厳しい環境だと思いますね」

同社のミッションは「人々に、時間と価値の選択を届ける」。

松村は、自分や一緒に働くメンバーの時間は絶対に無駄にしたくない、と言葉を強める。

次はSaaS。20代で上場を叶える目論見


創業2年目のスタートアップとは思えないほど、安定した歩みを進めるテイラーアップ。だが、当然ながら失敗も経験している。

「失敗の多くは、ライブコマースと商材の相性に起因しています。どうしてもライブ配信だけでは、特長を伝えきれない商品が一定数存在するんです。

しかし冒頭でお話ししたとおり、失敗は何よりの糧。失敗も成功も経て培ったノウハウを最大限活かすべく、2期目からは企業向けの研修事業をスタートしました。ライブに出演して販売を行うライバーやコマーサーを各社に育成することで、ライブコマース市場を底上げするのが狙いです」

加えて、2022年2月には、新たなSaaSプロダクトをリリースする予定だ。これまで受託事業のみで売上を伸ばしてきた同社だが、いよいよ自社システムを開発できる手筈が整ったという。

「ライブコマースの効果を測る分析ツールを、クライアントが活用、改善、継続しやすいSaaSで提供する。今考え得るベストな形だと思っています」

質実剛健さが垣間見える一方で「5年以内に100人の組織」「30歳までに上場」と言い放ち、上昇志向を隠さない。松村はZ世代起業家の中でもかなり稀有な存在のようだ。そんな彼が世間をどのように“見返して”いくのか。絶えず動向を見守りたい。

文・福嶋聡美 写真・小田駿一

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【編集後記】

私なりの礼儀だが、たまにハッキリと感想を伝えることがある。
もちろん、「真摯に耳を傾けてくれるだろう」と感じられる人に対してだけだ。

ご覧の通り、松村氏の実績は申し分ない。彼の原動力、反骨心の強さは圧倒的で、経営者としての胆力を感じる。

ただ、強すぎるな、と取材中に感じた。ライターからの一通りの質問が終わった時、「従業員のために、未来の仲間のために、会社をどうしたいのか?事業の強さと貴方の強さだけが際立った時間でした」といった類の言葉を投げた。

素直に受け止めてくれて、そこから一緒に会社のことについて考えた。そこで出たのが、質実剛健という言葉だった。若くて強い、どうしても派手に見られてしまうが、彼の本質は真逆のところにある。

顧客のため、従業員のため、ユーザーのために、恥ずかしいことはしない、裏切らない。そこがモットーだと。

野心家はどうしても穿った見られ方をする。だからこそ私は、彼の真の人間性を伝えたい。だから、今、編集後記に記している。

編集・後藤亮輔(Forbes JAPAN CAREER 編集長)