「誰もが知る大手から、他業種のベンチャーへ転職」
そこには迷いや葛藤がつきものだと想像していた。しかし、今回の主人公2人は揃って言う。「迷いはなかった。今とても満足している」と。
それぞれ別々の大手企業からM&A仲介ベンチャー企業に転職してきた、メガバンク出身の猪狩有智(いかり ありとも)とキーエンス出身の依田彪吾(よだ ひゅうご)。
前職において彼らは、大企業ならではのスケール感のある仕事もやりがいも、周囲からの羨望も手に入れていたはずだ。しかし、それを捨てる決断をした。
転職の舞台となったのは、2018年設立のM&A総合研究所。完全成功報酬制(譲渡企業のみ)とAIマッチングアルゴリズムの活用による企業マッチングというユニークなビジネスモデルを持つ、新進気鋭のM&A仲介ベンチャーだ。
やりがい、ステータス、前職よりもさらに高額な報酬、自由。
この転職には、魅力的な「何か」があったのだろう。対談によるリアルな彼らの声から、その何かを探っていきたい。
「そもそも、銀行ってこんなにたくさんいらないんですよ」
2020年秋にM&A総合研究所に転職した猪狩は、メガバンク出身。銀行では法人営業やトレーダー業務に幅広く携わり、7年のキャリアを積んできた。その彼に転職理由を聞くと、銀行の将来性に疑問を持つようになったから、と答えた。
数多ある銀行が合併を繰り返し、その存在価値はどんどん薄れていった。トレーダーの視点で「今自分が投資するならば、どの業界に投資するか」と考えたときに、目にとまったのは銀行ではなくM&A業界だったという。
その中でもM&A総合研究所に興味を持ったのは、平均年齢が30歳程度と若く、同世代で価値観の合うメンバーと一緒に会社を大きくできるやりがいがあったからである。
実際に同社には40名ほどのアドバイザーが在籍しているが、その年齢層は25~37歳と平均年齢は非常に若く、ほぼ全員が有名大企業出身である。
同業他社だけではなく、あらゆる業界で社内トップレベルの営業成績を残してきたメンバーが集まっているため切磋琢磨して成長できる環境であり、これが魅力だった。
一方、依田は新卒高収入ランキングの常連であるキーエンスから2021年春にM&A総合研究所に転職。キーエンスでは粘り強いBtoB営業の経験を約3年間積み上げてきた。
猪狩の話を聞いていた依田は、その転職理由に大きく頷いた。自分も、同じような悩みを抱えてきたからだ。
「前職では、他企業に勤める大学同期よりも多くの収入を得られること、名の知れた企業の社員であることに誇りを感じていました。ただ、会社のルールに縛られず、効率よく仕事をして、出した結果の分だけ正当に評価されたい。ただ、それだけなんですよ」
依田彪吾(よだ ひゅうご)・1995年生まれ・キーエンス出身
M&A総合研究所では社内のDXシステムにより無駄な作業はほぼすべて効率化・自動化されており、誰でもできる事務作業を営業が手を動かしてすることはほとんどない。
新規営業のために手紙を送る際も、リスト作成から発送依頼まで5分ほどで完結する。他にも契約書が10秒で作成されるなど、細かいところまでとにかく効率化されていて、無駄な作業をしなくても良い状態になっている。この合理的な会社の方針に共感し、入社を決めた。
業界の中で同社を選択する決め手となったのは、代表の佐上と直接話をしたことだと2人は言う。
佐上は若くして起業家、投資家としても成功を収めている。大手で今のまま働き続けても年収は限られるし、佐上のようにはなれない。M&Aのアドバイザーとして大きく稼ぎ、35歳頃までに資産形成をすべきであるということに気づいた。サラリーマンだとこんな話は今まで考えられなかったが、佐上からその話を聞いて共感した。
実際自分と年齢が変わらない佐上がそれを実践しているので説得力があり、その下で学ぶことによるメリットが大きいと判断。2人は「ここでなら、自分のやりたかったことができる」と感じ、入社を決めた。
更に代表の佐上は、上場後はM&A仲介業にとどまらず自分たちで他の会社を買収し、様々なレガシー領域にイノベーションを起こしていくというビジョンを持っている。優秀なアドバイザーは子会社の経営層としてのキャリアも築けるチャンスがあるので、そういったキャリア設計にも魅力を感じた。
実際に入社し、2人は自身の決断に「満足している」と口を揃える。
「M&A仲介の仕事は案件のソーシングからスタートし、売主となるオーナー様と買手企業様の間に入り、トップ面談や条件交渉などを経て最終契約を交わすところまですべてに携わります。この舵取りを自分でできる。それがまず大きなやりがいになっていますね」
ルールに縛られずに仕事をしたい、経営に近い仕事がしたいと語っていた依田は、今の仕事への満足感をそう言葉にした。実際に入社5カ月目にしてすでに1件を成約に導いており、次の成約も間近なのだとか。大きな金額が動くM&A案件で、このスピードは驚異的と言えよう。
「社内システムの改修なども営業発信で行います。改善してほしい点などがあれば開発依頼をシステム上で出すことで、それが反映されます。私も入社間もないころ開発依頼を投げたところ、翌日には実装されていて驚きました」
このスピード感も大企業にはなかったもので、入社前に聞いていた通りだった。
さらに猪狩は、M&A総合研究所のインセンティブルールに、仕事の質を向上させる要因があると語った。
猪狩有智(いかり ありとも)・1991年生まれ・メガバンク出身
「業界的に、上司にアドバイスをもらったり案件を手伝ってもらったりすると、自分の成果の大部分が上司に配分されると聞いたことがあります。ここでは、上司に同行やアドバイスを依頼しても、上司とインセンティブを分割しません。だからこそ、インセンティブの分割が嫌だからとアドバイスを受けずにクライアントの利益を損ねるようなことはなく、正しい選択ができるんです」
分からなければ、上司の協力を得る。その「あたりまえ」が、「あたりまえ」にできる。フラットに自分があげた成果の分だけ、自分に評価が返ってくる。そのことを猪狩は実感しているという。
多種多様な業界で実績を上げてきた優秀な人材が集まり、英知を結集させる。敵視や妨害をすることなく、いい成果を出すためだけに全員が力を注ぐ。まさに質実剛健と言えよう。
入社して間もなく、大きな金額が動く契約を手掛けることに不安はないのかと依田に聞くと、「不安だらけです」と笑顔の返答があった。その金額の大きさと、売主であるオーナーの緊張感を思うと、夜も眠れないほど自身も緊張していると言う。
いくつかの案件をすでに成立させてきた猪狩も、最初の案件を成立させた後は「とにかく、ほっとした」のだとか。充実感よりも先に安堵が押し寄せたのは、何よりオーナーに寄り添い、その不安を取り除きたいと尽力してきたからだ。
成約後にあるオーナーから、「思ってたより普通だったね。もっとハラハラするものかと思っていた」と言われたことを、猪狩はとても大切にしている。そして「ハラハラさせないのが私の仕事なんで」と、そのときの思いを充実感たっぷりに語ってくれた。
隣でその言葉を聞いた依田も「そうありたいですね」と、この後の契約に向けて意思を固めた。
そんな依田の今後の目標は、実績を積んで得意な業種を作りあげること。また、M&A総合研究所において子会社の経営に携わるなど、幅広いキャリアを築くことだ。
また猪狩は、自らのスキルアップを図るとともに、経営を学び、会社・組織を作る仕事もしていきたいと考えている。そして、M&A総合研究所の上場や、業界を変えていく未来にも深く関わっていきたいと語った。
対談において2人の話を聞いていると、霧が晴れたような視界が彼らの前には広がっているのだと感じた。
文・笠井美春 写真・小田駿一
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欲求は誰にでもある。ただ、文字にしてしまうと何故か煙たがられるものとなってしまう。何故だろう、誰にでもあるものなのに。
今回の取材は、若手2人の欲求と真正面から向き合えるものになった。
それは誰にでもある、誰もが持つシンプルな欲求。
「気持ちよく仕事したい、結果を出したい。その上で適切に評価されたい」
こう、文字にしてしまえば彼らの欲求になんのいやらしさも感じない。20代であれ、30代であれ、40を過ぎてもこの欲求は消えることはないのではないだろうか。
不要なルールを排除した、シンプルな会社に彼らは希望を求めた。そしてそれが今、叶いつつある。
企業に勤めるということは、ステータスを得ることでは決してない。
この至極シンプルなストーリーに心を動かされた人もいるのではないだろうか。
少なくとも、私はそうだった。
編集・後藤亮輔(Forbes JAPAN CAREER 編集長)