「中国が世界を制覇する」と予言されるようになって久しい。世界3大投資家の一人、ジム・ロジャーズも、「(子供には)絶対英語よりも中国語を学ばせたほうがいい。なぜなら、アメリカは衰退し、中国が再び世界の頂点に君臨することは明らかだからです」と言う。
その時代に生き残るのは、活躍の場を国内外を問わず選べる、いわゆる「グローバル人材」と言われている。今、そういった「グローバルな」人材たちは、何を考えているのだろうか。
グローバル人材に特化した英人材サービス大手ロバート・ウォルターズが、20年目となる世界各地の給与・採用動向をまとめた2019年版給与調査(サラリーサーベイ)を見てみた。
サーベイ中、印象的なのは、同社が2018年の5月から、2000人弱のバイリンガル人材を対象に行った職務動向調査によると、12ヵ月以内に転職したい人材は69%、との数字が出たことだ。
日本や他国の経済状況に左右されず、いわば世界水準の給与条件の元で働けるはずのバイリンガル人材たちは、なぜ現状に満足しないのだろうか。
そこで、東京都内の外資系社員に「なぜ外資系企業はおしなべて離職率が高いのか」について、また「自身はどのような時に転職をしてきたかについて」を聞いてみた。
まず、金融系企業勤務のAさん(女性・45歳)は以下のように答えてくれた。
「同じポジションでの仕事が数年以上続いて、希望を出してもすぐには異動させてもらえそうにない時は、社外にどういうポジションがあるか調べ、興味のあるポジションには応募します。過去には、必ずしも転職だけではなく、大学院に行ったり、通訳学校に通ったりしてスキルアップをはかりました。ほかには、組織変更で自分の仕事のスコープが狭くなったりした時は転職を考えました。仕事がいつもチャレンジングだがやり甲斐があるか、自分を成長させてくれるかを重視して、環境を選んできた感じです」
その他、次のような声も聞き取れた。
「外資系企業には終身雇用の文化がもともとないことと、組織を移ることで役職と給与を上げていく面があるので、転職にはまったく抵抗がありません」(外資IT流通系・女性・42歳)
「長いこと同じ組織に留まっていると、逆に組織外からの引き合いがないのでは? という印象にもつながりかねない。人材価値が落ちる気がする」(外資IT流通系・男性・38歳)
「過去には、この仕事を続けてさらに1年経った時、自分は今の職場の外に説明ができる市場価値のある人材になっているだろうか? という不安があった時に転職しました。今でも、極端にいえば毎日、レジュメ(履歴書)のバリューが上がっているかどうかを気にしながら仕事していますね」(外資アパレル系・女性・38歳)
その時々に興味のあるポジション、チャレンジを求めることで、結果的に企業をまたいだ異動になるということかもしれない。終身雇用の文化は終わった、と言われながらもまだまだ危機感の低い日系企業社員に比べて、外資系企業社員は、履歴書の価値を上げ続け、チャンスがあった時に飛びつける人材でいたいという意識が高い、ということだろうか。
そういえば、筆者自身の外資系企業勤務時代の優秀な同僚数人も、履歴書を常にデスクトップに置いてアップデートしていたことが思い起こされる。かたや筆者の夫(転職経験のない日系企業勤務)など入社以来、履歴書をいじったことがないらしい……。
それでは、チャンスがあった時に飛びつける、「強い」履歴書はどうすれば書けるのか。ロバート・ウォルターズ・ジャパンITディレクター、友和ベッゾルド氏に教えてもらった。
「たとえばIT人材の場合ですが、気をつけなければならないのは、経験やスキルが『古びて』見えないようにすること。とにかくアップデートしてください。強調するべきは、とにかく直近のスキル、資格、技術、関わったプロジェクトなんです。
探しているポジションとは関係ない経歴やスキルについては、思い切って割愛すること。そのことで、重要スキルを強調することができます。
たとえば、10〜15年前はウォーターフォール型開発をやっていたデベロッパーの場合。今の主流はアジャイルですよね。その場合、ウォーターフォールの経験は履歴書に書く必要はない。直近のアジャイル開発だけを書くべきです。
この仕事をしていてとにかく感じるのは、これまでに関わった、学んだ、使ったすべての技術をすべて盛り込もうとする人が多すぎるということ。過多な、必要のない情報は履歴書を弱く、薄くしてしまうんです」
ベッゾルド氏によれば、転職に慣れている外資市場の人材でさえ、とかく自分については「あれも、これも」と欲張りたくなるようだ。とにかく自分の情報を「アップデート」してスリムにし、強みを強調していくこと。これはおそらく、外資企業社員、内資企業社員を問わず採用してよい共通戦術だろう。
「共通」といえば、現状の外資企業はもしかすると単に、日系企業の未来を体現しているだけかもしれない。日系企業が世界で通用したいと思うなら、給与体系もこれから「外資」のそれに近づいて行くはずだ。
さらに、現役時代の経験・スキルをフェアな価格で「買い取って」もらえるシニア人材になるには──ならびに、世界水準のフェアな給与条件の元で活躍するためには、英語ができること以外に、今の職場の「外」に説明が効く人材として仕事をしてきたかどうかが大きなポイントになるのではないだろうか。
そういう「未来の日系企業」で働く日本人たちの意識も、変わっていくのかもしれない。彼らの職場PCのデスクトップに、常にアップデートされた、そしてスリムな履歴書が置かれる日もそう遠くはなさそうだ。
※Forbes JAPANのWEB記事より転載
文・石井節子