ボブは、成長中の建設会社で最高経営責任者(CEO)を務めている。唯一の問題は、週に75時間も働いていること。部下の幹部たちがしでかしたミスの“尻拭い”をしているからだ。しかしボブはこれまで部下に対し、自分の仕事には最後まで責任を持って取り組むよう明確に指示してこなかった。
シャロンは、中堅ソフトウエア会社の営業担当上級副社長。部下の営業担当者らは高給取りながら、営業目標は達成できずにいる。それでも報酬が減らされることはなかった。
この2人のリーダーに共通するものとは何だろうか?いずれも、対立を避けているのだ。
多くの人は、対立は“悪”であるという考え方を、人との関わり合いや社会人生活から学んできた。成功するためには、楽観的でポジティブな体を装うべきだ、と。しかし対立の回避は、表面的な調和につながる一方で、現実を否定し、真の信頼関係を損なう行為でもある。
対立が起きた時、リーダーの多くは、その対立を解決に導くのではなく、(ボブやシャロンのように)対立への関与を避けようとする傾向にある。人の脳は帰属意識が強いため、このような行動は心地がよい。仲間はずれを嫌うことは、対立を恐れることにつながる。しかし、対立は避けてしまうと、次第にエスカレートしていくものだ。
職場(あるいは人生)で対立や不和に直面した時に人が陥ってしまう状態を、私は“家畜状態”と呼んでいる。人は脅威を感じた時に、この家畜状態に陥る。対立が起きると、大脳辺縁系がつかさどる動物的な生存本能が始動し、結果としてコミュニケーションとチームワークを損ない、攻撃性を煽ってしまう。これらは全て、さらなる問題につながる。
以下に、私たちがすべきことを紹介する。
恐らく、以下のような原因が見つかるだろう。
・コミュニケーションが少なかったり、不完全だったりして、期待値のズレや誤解が生まれている。コミュニケーションの有効性、正確性(相手に聞いたことを繰り返させる)、完全性(前提条件や不測の事態を考慮する)を担保すること。
・フィードバックの頻度が少なく不完全で、人々が自分のしていることが正しいのかそうでないのかが分からない状態になっている。
・責任逃れをしても罰則につながらないため、同じことを繰り返してしまう。
対立の回避には、以下の3つのパターンがある。
・受動的:何もせず、問題が過ぎ去ってくれることを願う。あるいは、他の人間が行動を起こして失敗するのを待っている。
・過剰に迎合的:アイデアや意見を率直に話し合った方が関係性の強化につながるという考えを持たず、波風をなるべく立てないようにする。
・過剰に抑制的:議論や関係構築のための時間を割いていない。
上記のパターンはそれぞれ、時と場所によっては効果を発揮するものの、止められなければ成果やチームの士気、持続可能性に悪影響を及ぼす。ボブとシャロンは、コーチングを通じて自らの対立回避のパターンを理解した。私は次のステップとして、対立により容易に対処できるツールを2人に与える必要があった。
これにより、自分と周囲を家畜状態から脱却させ、前頭前皮質へと移行させられる(これであなたも晴れて“スマート状態”に!)。誰もが良い気分になれる状態を描き出すために、「アウトカム・フレーム」という方法を利用しよう。アウトカム・フレームを使えば、自分がこうありたいと望む状態の強いビジョンを作り出せる。以下は、この方法で使われる基本的な質問の例だ。
・あなたの希望は?
・それを実現することで、何が得られる?
・希望が実現できたかどうかは、どうすれば分かる?
・その希望をいつ、どこで、誰と実現したい?
・その希望を実現することで、失う恐れのあるものは?
・次に取るべきステップは?
この手法を通じ、自分のチームが対立状態を克服して前進する方法を見出せる。上記の質問に答えさせることで、チームメンバーが本当に目指したいと思っている目標を吟味させよう。アウトカム・フレームは、対立を予防するための強力なツールでもある。
自分は、おもちゃやお菓子の詰まったメキシコのくす玉人形「ピニャータ」の作り手だと考える。ピニャータをつるして皆に叩き落としてもらうように、チームに対して対立の解決につながるような方法を提示する。この提案に体当たりしなければ、ご褒美は得られない。
この考え方により、チームメンバーが他者の意見を聞き入れないまま、ひとつのアイデアや解決法に固執することを避けられる。同時に、自分の頭の中で特定のアイデアや解決法が完全に固まる前に、それらを議論に付すことができる。この協働型の解決法策定スタイルが、誰もが安心でき生産的なものとなるよう、自分のコーチと共に取り組もう。
責任感の低さ、批判的な言動などのトピックについて、率直で非批判的な会話を持てれば、それはチームと自分自身の強力な学びの機会となる。人間関係を見直し、自分が恨みや不信感を抱いている人、あるいは、相手の気分を損ねるかもしれないという理由や自分が相手を見限っているという理由で情報を共有していない人を特定しよう。
・対立が回避されている理由を把握し、対立回避を減らすために上記ツールを利用しよう。
・対立回避のパターンを理解しよう。こうした意識を持つことで、対立を回避している自分に気付き、対立対処ツールを使うことができる。
・アウトカム・フレームを利用して将来への計画を立て、自分のチームが目指す方向を理解しよう。
・健全なぶつかり合いが必要な場合は、ピニャータを使おう!
※Forbes JAPANのWEB記事より転載