「人の役に立ちたい」
誰もが一度は口にしたことがある言葉かもしれませんが、この想いが私の中で“自分ごと”になったのは、大学卒業前、地元広島での教育実習中のある気付きがきっかけでした。
「これまで、お世話になった人や面倒をかけた人が、ほんまにようけぇおるなぁ(本当にたくさんいるなぁ)」
申し遅れました。ソニー生命でライフプランナーとして活動している、立川健悟と申します。
これからはお世話になった人に、少しでも恩返しをしながら生きたい。そんな気持ちを胸に就職氷河期の2003年にキャリアをスタートしました。広告制作会社へグラフィックデザイナーとして入社した私は、東日本大震災を機に不動産ITベンチャー企業へ営業として転職し、後に執行役員として東証マザーズへのIPOを経験しました。
その後、再転職し、前述の仕事をしています。
具体的な仕事をお伝えすると、ファイナンシャルプランニングの技法を活用した「ライフプランの見える化」をし、そこから「マネープランの検討」「リスク対策の提案」まで幅広くやっています。
さて、少しずつ本題に入っていきたいと思います。
なぜ、ファイナンシャルプランニングの専門家がキャリア設計についての連載をすることになったのでしょうか。
それは、この2つが非常に深く結びついているからです。
LanKogal / Shutterstock.com
実は私のもとには、「転職を検討しているものの、決めきれない」というご相談が少なくありません。
・やりがいを重視した転職をすると収入が減ってしまう
・転職すると今の会社の退職金を失ってしまう
これらは一時的な収入や退職金の減少という、目の前の事実だけにとらわれてしまい、「具体的にどういった影響を家計に与えるのか」を把握しきれていないケースです。
「お金が減る」という漠然とした不安だけを理由に、人生の大事な決断が先送りになっている方を、これまで多く見てきました。
こうしたご相談に対して私は、転職後の収入でもライフプランを十分に叶えることができると分かれば、チャレンジする選択肢があることをお伝えしています。
そこまで判断できた場合、転職は管理できる範囲のリスクであり、むしろチャンスです。目先の収入こそ減ったとしても、人生の充実度が高まったり、それによって結果的に収入が増えたりするケースも少なくありません。
一方、ライフプランによっては転職してはいけないタイミングもあります。分かりやすい例でいえば、直近で家の購入を検討されている方。転職直後は一般的に住宅ローンを組みにくくなってしまうため、そうした状況での転職はオススメできません。
このように、キャリアとライフプランは非常に密接な関係にあります。当たり前のように聞こえることではありますが、実はそれを知っていても理解して実践している方はあまり多くないのではないでしょうか。
かくいう私も、実は30代中頃までライフプランやマネープランをしっかり考えたことはありませんでした。
25歳で結婚した私は、新婚旅行を皮切りにほぼ毎年海外旅行、休日は外食も多く、観劇、スポーツ観戦、美術館巡りなど夫婦で楽しいことにどんどんお金を使っていました。気がつくと29歳で子供が産まれた時には貯蓄がほとんど無く、お金を貯めるため義母の家にしばらく居候させてもらったほどです。
しかし、「ライフプランを見える化」したことで初めて
・「今後の人生で必要になるお金」
・「これから用意しなければいけないお金」
を確認し、人生のゴールを具体的にイメージすることができました。
LanKogal / Shutterstock.com
そのゴールを達成するために、仕事でのKPIの考え方をプライベートにも応用するのがおすすめです。
主従関係でいえば、人生は、仕事を包括する概念です。「人生のKPI」の中にキャリア設計の要素も反映させることで、目の前の仕事を自分の未来につながることとして捉えられ、前向きに毎日を過ごすことができます。
なにも難しく考えることはありません。「50歳までに趣味の領域をこのくらい広げたい」「65歳で仲間を50人集めてパーティーをしたい」と少し考えてみるだけで十分です。
目標を具体化すれば、実現方法も具体化します。
例えば「パーティー」であれば、その間に「55歳までに40人集める」「45歳までに30人」「35歳までに20人」と設定できます。直近の「35歳までに仲間を20人集めてパーティー」というマイルストーンが見えたら、そのために招待客のリストアップをし、人数が足りなければ「Facebookの友達を50人増やす」などの小さなKPIを設定しても良いでしょう。
実体験ですが、人生のKPIを仕事にも反映させることで、働く姿勢や働いている時の景色はどんどん変わっていきます。
例えば営業で、目標とする新規契約のために「1日3件のアポイント」を追っている場合。同時に人生のKPIとして「未来のパーティー参加者を探す」ことも念頭に置いておけば、新たに出会う人と目先の損得ではなく、中長期的に関係性を築けるかという目線で接することができます。
ビジネスよりもやや漠然としていたり、厳密にはKPI(指標)ではないかもしれませんが、楽しんでステップを踏んでいる状態をつくれれば良いのです。大きな夢でも、逆算すれば最初は低いハードルで済むこともあるので、難しく捉えずにまずは試しに考えてみるのがオススメです。
これをもし夫婦で一緒にやれば、将来を話し合う機会も増え、新しいゴールが生まれるかもしれません。実際に私も、仕事でビジョンを描くのと同じように、家庭でそんなことを話し合っている日々はとても楽しいです。
LanKogal / Shutterstock.com
話をライフプランに戻します。
会社の予算と同じように、こうした目標設計ができて初めて、「老後に2000万円」といった一般論ではなく、自分にとって本当に必要なお金が分かります。私もみなさんと同じく『マネープランの検証』の第一歩を踏み出し、できることから始めて徐々に使えるお金を増やした1人です。
資産運用など、将来の資産形成の仕組みを導入し、手元の預金を毎月使い切ってもライフプランに影響を与えないという状況をつくりました。今では、ストレスなくお金を使うことができており、人へのプレゼントや自分へ投資するお金は以前よりも増えています。
また、ライフプランを守ることは本業でもあるので、リスク対策も十分に行なっています。仮に私に不測の事態が発生した場合でも、先ほど挙げたゴールや子どもの教育といった、「家族のライフプラン」を一切変更することのないよう、必要最低限の備えを用意しています。
キャリア設計も、ライフプランと密接に絡み合っています。
仕事で得られる報酬や、どのようなライフプランを描くかによって取るべき選択肢は変わります。また、当面の報酬が目減りしてもキャリアチェンジによって報酬がジャンプアップし、人生に大きな可能性をもたらすこともあります。
働き方や価値観などが多様化した時代だからこそ、自分のための精度の高い情報を手に入れ、公私ともに理想の人生やキャリアを設計することが大切です。
「お金の捉え方」を変え、ゴール設定をもとにした的確な意思決定をする。これができればライフプランとキャリア設計が絡み合いながら加速していく環境をつくれます。
この連載では次回以降、読者のみなさまに、そのための具体的な考え方をステップごとに詳しくご紹介していきます。
一人でも多くの方のチャレンジを後押しし、キャリア設計を加速させられるよう、全力で取り組みますので、どうぞご期待ください。
1980年広島県生まれ。ライフプランナー。
2003年にグラフィックデザイナーとして広告制作会社へ入社。11年、不動産ITベンチャー企業へ営業として転職し、主に法人開拓の業務に従事。後に執行役員として東証マザーズ上場。19年より現職。オンライン相談を活用し、お客さまの「人生のValue up」のお手伝いをしている。