企業の社員教育と採用のコンサルティングなどを行うJAIC(ジェイック)が4月2日に実施した調査によると、コロナ感染拡大、緊急事態宣言、経済への影響などで「説明会・面接が中止になった」経験がある就活生が9割以上との結果が出た。
最終選考の日程が未定で、すでに内定の出た企業への返事ができずに困る、との声も多い。「第2の就職氷河期」などと報じるメディアもある。
新型コロナウイルスの影響で選考プロセス中にポジションがフリーズになってしまった、インタビューがキャンセルになった、などで悩む読者へのアドバイスを、グローバル人材に特化した英人材サービス大手「ロバート・ウォルターズ・ジャパン」のキャリアコンサルタントに聞いた。
この時期、メンタルを守りながら前向きに乗り切るためにはどう行動すればよいのか。さらに産業界は、この「危機」をどう乗り越えていくのか。
まず、営業・マーケティング職の派遣・契約事業とヘルスケア分野を統括するアソシエートディレクターの吉村午良氏は以下4点のアドバイスをくれた。
候補者としては、普通ならこれぐらいで選考の合否が来るだろうと、タイミングの期待がある。だがこの時期、企業側も採用の方向性が見えなくなっていることが少なくない。
だから、今後の状況が見えない中で過度な期待をするのは望ましい選考結果の待ち方ではない。また、通常であればいい結果が出ていたかもしれないから、選考の良し悪しで気持ちに波を作ることもよくない。どんな状況でも受け止められる、広い心を用意しておくことが肝心だ。
とくに転職の場合、多くは、選考がフリーズになってしまったという状況をリクルーター(転職エージェント)から聞くことになる。重要なのは、その情報をもらったときに、リクルーターに、どういう背景でフリーズになったのか、どのくらいのタイミングで選考再開の可能性があるのかをしっかり聞き取ることだ。この時点で、どれだけリクルーターから情報を集められるかが鍵となる。
決して、「フリーズになりました」という事実だけを聞かされる「一方通行」で終わらないこと。本当のところがどうなのか、生の情報を得ることが必須だ。
ペンディングになった、フリーズになったとしても、それが1年も2年続くかといえば、決してそうではない。リクルーターにはある程度期間を区切って、たとえば1カ月後に連絡を取り、変化や動きがあってもなくても、とにかく状況を教えてもらおう。
リクルーターとのコミュニケーションに関しては、聞き取りばかりではなく発信も重要だ。自分の転職活動の状況をリクルーターに伝えて、その状況を選考中の企業に共有してもらうことを積極的に促そう。
今回の新型コロナ禍では、面接の進め方、面接の方法などの企業間格差が露呈されたと思う。
リモートワークを早急に導入した企業もあれば、いまだにオフィスに通勤させている企業もある。もちろん、リモートワークを進められない職種はあるが、同じ仕事内容・職種でみれば、企業間で差が出ている。採用活動も然りで、こうした非常事態の中でも、「対面で面接したい」という企業も稀にある。
仮にそうした企業に採用された場合は、緊急時に、予想外のことを会社から期待されるかもしれない。選考プロセスが通常よりも長くなっていることをネガティブに捉えるのではなく、各社の対応から企業体質を評価できるチャンスと考えよう。
仕事をするということは自分の生活があってのこと。仕事や転職活動の状況によって気分が流されてしまうのはもったいない。ワークライフバランスに留意し、心身の健康を保ち、毎朝定時に起きて普段の生活リズムを保つなどを心がけるべきだろう。従来、出勤、退勤でできていた「切り替え」ができなくなる場合が多いので、ここは肝心だ。
たとえば朝10時になってもパジャマを着たままで、ネットを見始めたりするのは言語道断。先行きが見えない状況であっても、日々の生活を自律し続けることは重要だ。そうでなければ、今の状況が終息し、いざ転職市場の状況が上向いた時、そのチャンスを生かすことができない。
自分の市場価値を上げるスキル、知識を学ぶなど、日頃できなかったことをできる時間だと捉えるのもいいだろう。将来的な投資を自分にしてみよう。
振り返ればリーマンショックの最中、卓越したキャリア、スキルを持ちながらも失業してしまった人がたくさんいた。だが、優れたスキル・経験を持つ彼らプロフェッショナルたちは、おそらく失職は短期間、チャンスはその先に待っていると信じ、自分の市場価値への自信を拠り所に、転職に妥協はしなかった。
通常、無職の期間が3カ月、半年と長引くと、心が折れたり、気持ちが落ち込むこともあるだろう。そんな時こそ規律ある暮らしを心がけ、いつもの生活リズムを乱さず、自己投資をすることは大変重要だ。
金融サービス・法務・人事・契約部門ディレクター、ジョシュア・ブライアン氏は、産業界全体へのメッセージも含む以下のコメントをくれた。
この危機下、失職したり、逆に現在の勤務先の将来性に疑問を抱いて自ら去ることを決めた人材は、少なくない。転職希望者にとっては門は狭くなっているといえる。だから、より一頭地を抜く人材として、企業側の印象に残る必要がある。
私のアドバイスのトップは、定量的な、「結果で示せるスキル」を箇条書きにして、採用企業に自分のバリューを示すことだ。
また、この流動的な状況においてはとくに、「順応性」はどの企業にとっても垂涎の長所になるだろう。採用者のジョブディスクリプション(職務内容)や企業が彼らに求めるスキルはこの時期、急速に変容するからだ。
ちなみに、ロバート・ウォルターズがアドバイスする「勝てる履歴書のコツ」は(英語版であるが)ここから閲覧できる。
転職希望者にとって、面接がキャンセルされたり延期されたりするストレスにははかり知れないものがある。
だが、忘れないでほしい。フリーズされたポジションは限られた短い期間で再びオープンになるはずだ。
とくに外資系企業の場合、インタビューのプロセスには、海外にいるインタビュアーとのインタビューが少なくとも1回は含まれることが多い。そして国によって、ロックダウンの緩和や、在宅勤務からオフィス勤務ヘの復帰など、ビジネス環境は時々刻々と変化するからだ。
現職がある転職希望者諸氏には、とにかく、辛抱強くリクルーターと連絡をとりながら「待機する」ことをお薦めする。転職の計画の先延ばしは賢明ではない。転職活動の休止は、せっかくの自分にとっての適職を他の人に譲ってしまう結果になりかねないからだ。
ただ、「辛抱強く待つ」とはいえ、「保留」が長引けば精神的に疲弊することも否めない。だからこそ、エージェントに現実的な今後の見通しを問い合わせることは重要だ。ポジションが再びオープンするか、あるいは「いったい何が変わったら」再度オープンになるか調べる。これらがあまりにも不透明な場合、そのポジションへの応募は見直すべきかもしれない。
コロナ禍はいくつかの産業にとっては試練でも、ある産業にとっては実は、逆に「新興」の機会でもあるかもしれない。
また今回、多くの企業で一層のデジタル化が進むはずだ。「印鑑と紙」はついに電子契約、電子決済に代替されゆくだろうし、コロナ禍がいったん去った後も、完全ペーパーレス化、シフト勤務、一部在宅勤務化といったビジネス環境へのシフトは止まらないはずだ。
何よりも大事なことがある。それは今、産業界内での価値評価は、個人やチーム単位でされる可能性が大きい、ということだ。
リーマンショックの際にも感度の高い銀行が旺盛な買収活動を行ったが、その多くが、「企業そのものの価値」というよりは「個別の」リーダーシップ人材や卓越したパフォーマンスのあったチームに価値を認めてのものだった。
つまり、現在の危機は、すべてのすぐれたリーダーやチームが力を得る、きわめて重要なフェイズでもあるのだ。
※Forbes JAPANのWEB記事より転載
文・石井節子