仕事には、壁がつきものだ。

一生懸命働いたからといって全て上手くいくとは限らない、空回りすることもある。理想を高く掲げるほど、理想と自分の間にある溝の深さを思い知る、落ち込む。そのたび、人や環境に助けられ、自分と向き合い試行錯誤しながら、前に進み続ける。

手塚ちひろさんは、二人の子どもを持つ母親であり、置き型社食サービスなどを提供する株式会社OKANで働く社員。労務担当として中途入社し、入社から一年経たずして、人事労務・総務部門のマネージャーに就任。

そう聞くと、ワーキングママの象徴のように思えるかもしれない。けれど、彼女も最初から育児と仕事の両立ができたわけではない。大きな失敗も、小さくない後悔も経験した。

あるとき、自分のスタンスを変えられた。周りに頼れるようになり、そして働きやすくなった。今は、以前より心に余裕を持って、仕事に向き合えている。彼女はどのように高き壁を乗り越えたのか、等身大で話していただいた。


負のスパイラルにはまり、仕事と家庭の両立ができなかった

「子どもを産み、育て、いいお母さんになりたい」 “学校を卒業したら就職すること”、と同じくらい自然に、ずっと私の中にあった思いです。その思いは叶い、今は4才と2才の子どもを育てながら、株式会社OKANの人事労務・総務部門であるヒューマンサクセスグループに所属しています。

学生時代から、「いろんな事情により、結婚・出産後は働けない未来もあるかもしれない。いつキャリアが終わるかわからないのなら、後悔しないくらいめいっぱい働ける場所に行きたい」と思っていました。だから就職活動のときも、大企業と未知数のベンチャー企業との間で迷った末、裁量の大きい仕事を任せてもらえそうなベンチャー企業を選んだのです。

入社後の私のポジションは法人営業。お客様に喜んでいただけることは私にとってのモチベーションにも繋がり、とにかくガムシャラに働きました。やがて、結婚し、小さいころから夢みていたお母さんになることも叶いました。

復職後は人事・労務にキャリアチェンジをしたのですが、育児と仕事の両立は思っていたよりも、簡単ではありませんでした。

子どもが熱を出して保育園からの呼び出しが続くと、「職場に迷惑を掛けてしまっているのでは......」と、どこかセンシティブになってしまって。気持ちが不安定だと、ミスも起きやすいもので、罪悪感を抱えながら業務をすることで、ミスがミスを呼ぶ日々が訪れてしまいました。

ミスをした申し訳なさを引きずって再度ミスをしてしまう…といった負のスパイラル。同僚から何かを言われたわけでもないのに、「言い訳せずに自分も頑張らないと」という気負いが空回りしてしまって。そうした日々が続き、どんどん苦しくなってしまって、「いったん仕事から離れよう」と退職を決めました。

「できない」「助けてほしい」が言えたら、楽になった

退職したものの、専業主婦を続けるイメージは湧かなかったため、仕事は続けようとは思っていました。人事を経験したことで、バックオフィスの方たちがエンパワーメントされて、結果的に会社全体の働きやすさが向上するような事業に興味を持つようになりましたね。

転職活動を進める中、エージェントから紹介されたのが、ここ、OKANでした。働く人のライフスタイルを豊かにするために、働きにくさの要因を突き止め、最適な解決策を提供している企業。そう聞いて、希望に近そうだと思いました。

とはいえ、前職で育児と仕事の両立ができなかった記憶は正直、拭えていませんでした。

「同じことを繰り返してしまったらどうしよう」という不安も大きかった。けれど、面談でお話させていただいた女性が、仕事にやりがいを感じており、会社の未来についても熱く語ってくれて。疲弊せず、イキイキと働いている方の姿を間近で見たから、安心して入社を決意できました。

転職後、意識していたことが二つあります。ひとつは、まずは成果を出して、「この業務は手塚に任せよう」という得意分野を作ること。もうひとつは、現在のやり方を認めた上で、より良くなるための改善案を提案すること。

どんなオペレーションも、先輩方が会社にとって最適な形に作り上げてきたもの。それに敬意を払いつつ、業務効率化のための提案をすることに努めました。

そうして新しい環境で働く中で、ひとつ、自分に大きな変化がありました。それは、「できない」「助けてほしい」が言えるようになったこと。今までは、弱音を吐くのが怖かった。「仕事ができなければ、必要とされない」という意識が強すぎた。“仕事と育児を両立させるすごい人”になりたいのに、理想とは程遠い自分の姿を突き付けられては、自己嫌悪になってしまっていました。

けれど、あるとき、周りに支えてもらいながら、大きな仕事をやり切る経験ができて。一人じゃ何もできないと実感するとともに、サポートしてもらうことで、自分のキャパシティを超えるアウトプットが出せるのだと知りました。

それ以来、できない自分を受け入れられるようになり、頼ることに罪悪感を抱かなくなったのです。自分の能力を受け止めて、できることはする。できないことは周りに助けてもらう。シンプルに考えることができるようになってから、とても楽になりました。

同時に、予定は崩れるものだと思えるようにもなりました。もちろん、人と一緒に仕事を進めていく以上、計画は立てなければいけません。けれど、計画通りいかないことも多い。今日はこれをしようと思っていたのに、子どもが熱を出してお迎えに行かなければならず、予定が狂うことも。

そんなときも、「こうなるの知ってた!」と明るく受け止めて、どうすればいいかを前向きに考えられるようになりました。

自分の働きやすさを見い出せた、次はみんなの働きやすさを考える立場に

「こうして私は壁を乗り越えてきました!」と言い切れたらいいのですが、今も仕事の壁にはぶつかり続けています(笑)。最近感じているのは、マネージャーの難しさ。

マネージャーとは言っても、期待半分での登用なので、まだまだ出来ないことばかり。先輩マネージャーをランチに誘ってマネージャー論を尋ねたり、薦められた本を読んで取り入れられそうな部分は実践してみたり、学習と実践の日々です。

今、なんとなく感じているのは、「メンバーそれぞれの得意なこと、できることを伸ばしていけるようなマネジメントが理想」だということ。

ヒントになったのは、子どもの習い事です。私は娘にピアノを習わせたかったけれど、娘はダンスに夢中で。すごく楽しそうに踊っているし、上達も早いんです。その姿を見ていると、「好きなことに打ち込ませてあげた方が伸びる」と感じました。きっと、メンバーにも苦手の克服を強いるより長所を伸ばしてもらった方が、チームとして良いパフォーマンスを出せるのでないか。そう意識してマネジメントをしていきたいです。

「子どもの選択に寄り添いたい」という気持ちが、今の私の軸。もしも、「海外の学校に行きたい」と言い出したら付いていくかもしれません。だから、キャリアプランは正直よくわからないのが本音です。けれど、仕事をする以上は、自分が働くことで価値を生み出したい。安心できる環境で働けているのだから、臆せずチャレンジしていこうと思います。

文・倉本祐美加 写真・曽川拓哉