2月12日、創業3年目以内の起業家・経営陣のスタートアップ・コミュニティ「Rising Star Community(通称、RSC)」初のコラボレーション・イベント「スタートアップのCxOとして生きること」が開催された。

当イベントは、RSCメンバーである金子和真氏(Linc’well代表取締役CEO)、流郷綾乃氏(ムスカ代表取締役CEO・イベント当時)、佐古雅亮氏(Spready代表取締役)をスピーカーに招き、Forbes JAPAN CAREER編集長・後藤亮輔がモデレーターを務めたトークセッションと、参加企業によるピッチ、そしてスタートアップへの転職を希望する参加者約30名によるミートアップタイムの3部構成にて行われた。

今回は、「CEOの目に映る、スタートアップでCxOとなれる人材の才覚」と題されたトークセッションの模様をお伝えする。

スタートアップ企業におけるCxO(CEO、COO、CFOなど、経営幹部クラスの役職)の役割は、プロダクト運営から経営まで非常に横断的だが、数億単位の資金調達を実施している有望スタートアップ3社は、その位置付けをどう捉えているのだろうか。

気鋭のスタートアップ3社、「CXOとはこうして出会った」


セッションのモデレーターを務めたForbes CAREER編集長の後藤亮輔は、スタートアップのCxOを担う人材は、既に活躍しているフィールドからの転職が多いことを踏まえ、「適任者を口説くのにも時間と労力が必要だと思うが、CxOとの出会いからジョインまでにどんなエピソードがあったのか」と聞いた。

最初にマイクを手にしたのは、東大病院で専門医として働いた後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2018年にLinc’wellを創業した金子氏。同社のCTO・COOは、共に創業後に外部から引き抜いたメンバーだという。

「CTOは創業初期に友人の紹介で知り合いました。スタートアップで働く意味という根本的なところを3カ月ほど話し合い、最終的にはその魅力を感じてもらいジョインしてくれました。彼が名古屋に住んでいたこともあるので、それまでは1週間に1〜2回は電話をしたり、ご飯に誘ったりと、連絡する頻度は高かったです。COOはマッキンゼー時代の後輩でした」(金子氏)

イエバエを使った独自のテクノロジーで環境問題にアプローチをするムスカの流郷氏は当初、創業して間もない同社の広報・PRパートナーとして案件ごとに関わっていたという。ところが最終的にはクライアント企業にジョインし、CEOとしてフルコミットするようになった。そんな彼女と現COOの出会いのきっかけは、スタートアップ業界に特化したメディア「TechCrunch」のイベント。流郷氏がピッチで登壇した回のオーディエンスに彼がいて、声掛けをされるに至った。

HRマーケットのスペシャリストであるSpreadyの佐古氏も、共同創業者との出会いを「最初はクライアントだった」と振り返った。自身が転職エージェントに勤めていたころ、新たな事業を立ち上げるために“一番良いインサイトをくれるのは誰か”を考えており、その時に浮かんだのがクライアント企業で人事担当をしていた現COOだったという。

「この人だとピンときたら、“巻き込み戦法”でアプローチします。土日も食事に誘って議論を交わしました」と熱い姿勢を露わにし、「一緒に働いてわかることがあるので、目の前のチャンスと何らかの絡みを持つと良い」と参加者へのアドバイスも添えた。

三者に共通しているのは、顔も名前も知らない人物を誘ったのではなく、すでに接点のあるコミュニティの中から適任者を見つけて口説く、あるいは口説かれていることだ。スタートアップ転職の入り口として、出会いの場・コミュニティの広さが極めて大切だと伺える。

「スタートアップの35歳定年説」は本当に存在するのか


後藤が次に投げかけたのは「O-35(Over-35)であっても積極的に採用するか」という問いだ。

スタートアップに限らず多くの企業ででは「35歳」が採用の基準とされているケースも、正直少なくない。何でもスピーディに吸収する“若さ”に価値をおくのか、それとも社会人としての“経験”に意義を見出すのか、現場はどのように考えているのだろうか。

佐古氏は「弊社はO-35の採用には積極的で、年齢関係なくフラットに判断しています」と自社のスタンスを述べたうえで、待遇はシビアに判断するというリアルな意見も出した。

「30代中盤はキャリアのターニングポイントで、大企業にいればある程度給与が引き上がっています。それに見合ったスキルを実際に持ち合わせているのかが問われると思います」(佐古氏)

社員の平均年齢が40歳を超えているというムスカだが、流郷氏も同じくスキルは重要と述べ、「むしろ年齢が若すぎると、スタートアップの企業ニーズに対してスキルが十分でない場合が多い」と即戦力の重要性を説いた。

金子氏からは、「創業してから日の浅いスタートアップでは新人を育成する余裕があるとは限らないため、O-35の熟練スキルに頼らざるを得ない」という実態について触れられた。

スタートアップへの転職と給与


昨今のスタートアップを見ると、“メガ”と呼ばれるような成長した企業については、むしろ伝統ある大企業よりも給与水準が高いケースも最近では珍しくない。

一方で、やはり一般的にはスタートアップへのキャリアチェンジによって、最初は待遇面での妥協があるようだ。

「ムスカに来て捨てたものがあるとすれば、給与です。フリーランス時代の方が稼いでいました。ただ、キャリアの面ではチャレンジだと思っているので、捨てたものはありません」(流郷氏)

「捨てるものとしては、家のローンが組めなくなることでしょうか(笑)」(佐古氏)

とはいえ、全ての人にとって「捨てるものと得られるもの」が同じではない。流郷氏は「結局のところ、自分が何をその企業で得たいかによるのでは」と参加者に問いかけた。

「特に大企業からスタートアップに転職すると、大企業の恩恵を実感できます。同時に、自ら組織の仕組みを作っていかなければならない意識が芽生えるはずです。大企業にいたからこそ、スタートアップに足りていないことを考えさせられ、さらにそのギャップを埋められれば人材としての価値は高まります」(金子氏)

スタートアップで働く意義を自ら見出せていれば、キャリア面で捨てるものはない。そこに事業としての成功をもたらすことができれば、結果としては大企業の水準を超える待遇を手にできる。広い視野では、捨てるものはないのかもしれない。

CxOの入れ替わりは活発になるべきか?なるのか?


必ずしも勢いのある20代だけではなく、大企業でいう若手から中堅に差し掛かる世代にとっても、スタートアップへの門戸が開かれている。さらに、内部事情にもう一歩踏み込んだ問いが投げかけられた。

「組織において、上のポジションが開かないから下が昇進できないという構造が散見されます。今、人数の少ないスタートアップならいいものの、大きくなるに連れて一般企業と同じようなケースが散見されるでしょう。チャンスを提供するという意味で、CxOの入れ替わりは活発に行われるべきだと思いますか?」(後藤)

金子氏は「会社のステージによってフェーズが異なるので、それはむしろ、変わることが理想では」と意見を述べ、COOが自ら適任者への交代を申し出たこともあると過去のエピソードを共有した。

「創業期の役員は自分以外全員いなくなるもんだ」と指摘したのは、佐古氏。事業成長への最短距離になるのであれば、CxOはいくら入れ替わっても良いと語った。

流郷氏は、ジョインした当初の“暫定”CEO」という肩書きにまつわる背景を語った。創業メンバーは「ハエのマニアと広報の2人だけだった」ため、事業拡大に適した人がいなかったという。そこで、CxOのポジションが空いていると社会に認知してもらうために、“暫定”という肩書きをPR戦略として意図的に用いた。

スタートアップCXOへの入り口は、あなたのコミュニティにすでに存在している

スタートアップでの採用活動は、大企業のように大網を投げるような戦法ではなく、事業の成長フェーズに応じたスキルを備えた人材を、経営陣が手の届くコミュニティの中からピンポイントで探し出していることがわかった。

また、成長スピードの早い現場では、「CxO」というポジションは、例え創業者であっても極めて流動的である。そのため、スタートアップCxOへの入り口は、“こんなことができる”というポートフォリオを持って、関わりたいコミュニティとの接点を持てているか否かが全てである。

トークセッションの後に行われたプログラムも含め、今回のイベントではRising Star Community・参加企業・イベント参加者それぞれに“出会いの場”を提供することで、まさにそれを体現した。


文・青波美智 写真・曽川拓哉